
不動産の売買契約を締結するとき、買主様は売主様に対して手付金を支払うことが一般的です。
手付金にはどのような役割があり、相場はどのくらいなのでしょうか。
この記事では手付金の種類や受け取るタイミング、手付金に関するトラブルの対処方法などを解説しています。
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手付金とは?
手付金とは、売買契約の締結のときに買主様から売主様に対して支払われる金銭のことです。
不動産の売買の流れは、売買契約と引き渡し日が別日で設けられることが一つの特徴となります。
売買契約とは、売買契約書の書面を締結する日のことです。
引き渡し日とは、買主様が売買代金を支払い、売主様が所有権を引き渡す日となります。
一般的な商品の売買では、売買契約(口頭契約を含む)と金銭の支払、商品の引き渡しは同時です。しかしながら、不動産の売買では売買契約日と引き渡し日との間を1~2ヵ月程度空けます。
手付金は、不動産売買の売買契約日と引き渡し日との間が長期に及ぶという特有の事情から重要な位置づけとなる金銭です。
また、手付金には3種類あります。それぞれ詳しく説明していきます。
解約手付
解約手付とは、手付金によって売買契約を解除できるという手付のことです。
売買契約から引き渡し日までの時間が長い為、売主様も買主様も途中で気が変わり契約を取り止めたいと思うことはあり得ます。
売買契約日以降、売主様も買主様も自身の都合で契約を解除できるのが手付金の役割です。
買主様は売主様に差し入れた手付金を放棄することで売買契約を解除できます。
それに対して売主様からの解除の場合は、売主様が買主様に手付金の倍額を返すことで売買契約を解除できます。
売主様は売買契約時に手付金を買主様から受領している状態です。
倍額を返すといっても、売主様は自分で手付金の1倍を支払い、あわせて買主様から受領した手付金も加えることで倍返しとなります。
よって、売主様も買主様も手付金の1倍の額を負担すれば、双方、契約を解除することができるということです。
買主様が手付金を放棄し、売主様が倍額を提供することで契約を解除できることについては、民法第557条に規定されています。
証約手付
証約手付とは、契約が成立した証とする為の手付です。
「第3章 手付金の相場はどのくらい?」でも詳しく説明しますが、手付金の相場は売買代金の10%程度であり、比較的高額です。
しかしながら、手付金は金額が高いことに意味があります。
前述の通り、契約を解除する場合は、買主様が手付金を放棄、売主様が手付金を倍返しすることになります。
しかし、手付金を安く設定した場合、双方が簡単に契約を解除してしまう可能性があります。
したがって、売買契約が簡単に解除されないように強固なものにする為には、手付金は一定の金額以上で設定する必要があるのです。
違約手付
違約手付とは、違約罰として没収できる手付のことです。
違約金が発生するケースとしては、例えば売主様もしくは買主様の一方が反社会的勢力に属していたといったことが挙げられます。
通常、売買契約書には「反社会的勢力の排除」という条項を設けます。
当該条項は、売主様も買主様も反社会的勢力ではないと表明する為の条文です。
「反社会的勢力の排除」の条項があるにも関わらず、相手方が反社会的勢力の構成員であれば契約違反ということになります。
反社会的勢力の構成員である事実が判明した場合、契約は解除され、また違約金も相手方に支払われます。買主様側の違約は手付金が没収となり、売主様側の違約は手付金の返還と同額の支払いが実行されます。
売主様が手付金を受け取るタイミング
売主様が手付金を受け取るタイミングは、売買契約締結日です。
ここで再度、売主様から見たマンション売却の流れを示します。
- 価格査定
- 媒介契約(不動産会社に依頼する仲介の契約のこと)の締結
- 販売開始
- 購入申込書の受領
- 売買契約の締結(手付金の受領)
- 引き渡し
- 確定申告
売主様は、売買契約の締結前に購入希望者様から購入申込書(買付証明書ともいう)を受領します。購入申込書は、購入希望者様が購入したい旨を正式に伝える為の書面ですので、購入申込書を受領しただけでは売買契約は成立しません。
売買契約は、購入申込書の受領後に売主様と買主様の希望条件が整い、双方が書面で契約を結ぶ段階のことを指します。
売買契約は、不動産会社の会議室などで行うことが多い為、売主様も買主様も、双方、不動産会社に集まります。
手付金は、売買契約日に買主様が不動産会社に持参し、手渡しで売主様に渡すことが多い傾向にあります。
手付金は、最終的には売買代金の一部となります。
ただし、解約手付や証約手付、違約手付の役割を終えるまでは、法律上はあくまでも手付金であり、売買代金ではありません。
無事に引き渡しを迎え、取り引きが完全に終了する段階になって、手付金ははじめて売買代金に充当されます。
手付金の相場はどのくらい?
中古住宅の売買の場合、手付金の相場は売買代金の10%程度です。
売買代金が4,500万円のマンションであれば、手付金は450万円にもなります。
一部の買主様のなかには、「手付金を用意するのが大変なので、手付金を下げて欲しい」と要望する方もいらっしゃいます。
しかしながら、そのような場合は手付金の意味がなくなってしまう為、手付金は値下げされないことが一般的です。
手付金が高ければ、買主様が売買契約の判断に慎重になり、契約後のトラブル防止にもつながります。その為、手付金が高額なことは、一概に買主様にとってデメリットとは言い切れません。
【ケース別】手付解除する際の対応方法
売主様都合・買主様都合、それぞれで手付解除する際の対応方法について解説します。
売主様都合で手付解除する場合
まずは、売主様都合での手付解除の方法について解説します。
手付解除期日の前後
売買契約日から引き渡し日まで1~2ヵ月程度空きますが、売主様も買主様も引き渡し日までいつでも解除できるというわけではありません。
通常は手付解除期日といって、手付解除ができる期限を設定することが一般的です。
手付解除期日は売買契約日から2~3週間以内とすることが多いようです。
例えば、売買契約日を11月1日、手付解除期日を11月15日、引き渡し日を11月30日としたとします。
手付解除期日は11月15日ですので、売主様も買主様も11月15日までであれば手付解除が可能です。
そして、11月16日から引き渡し日の11月30日の間は、売主様や買主様の勝手な都合で一方的に解除することができなくなります。
これ以降の解除は、相手方が債務不履行(約束を破ること)を犯した場合に限られます。
なお、民法では手付解除期日という表現は取っておらず、「相手方が契約の履行に着手した後は」手付解除はできないと表現しています。
契約の履行に着手とは、例えば売主様が所有権移転登記手続きに着手した場合などが挙げられます。
しかしながら、「相手方が契約の履行に着手した時点」というのはなにをもって履行の着手とするのかも不明瞭であり、あいまいな表現です。
そこで、あいまいさを排除する為に、不動産の売買契約書では手付解除期日という日を定めて取り引きの安定を図っています。
買主様都合で手付解除する場合
買主様都合で手付解除する場合について解説します。
ローン特約の利用
ローン特約とは、買主様が住宅ローンの本審査に通らなかったときに不利益を被らない形で契約を解除できるという特約です。特約を利用することで、買主様が売主様に預けた手付金は全額無利息で買主様に返還されます。
住宅ローンの本審査は、売買契約後から引き渡し日までの間に行います。
理由としては、住宅ローンの本審査には売買契約書が必要となるからです。
つまり、売買契約時点では、買主様は住宅ローンの本審査に通るかどうかはわからない状況です。
ただし、住宅ローンの本審査に通らないのは必ずしも買主様の責任とは言い切れず、銀行の審査基準が厳し過ぎるというのも原因として考えらえます。
そこで、万が一、住宅ローンの本審査に通らなかったときに手付金を放棄せずに契約を解除できるようにしたのがローン特約なのです。
手付解除期日の前後
売主様都合での手付解除でも説明した通り、売買契約書では手付解除期日を設定します。
手付解除期日以内であれば、買主様は手付金を放棄することで契約を解除できますが、手付解除期日以降になると、手付解除はできません。
契約不適合が発覚したとき
契約不適合責任とは、売主様が契約内容とは異なるものを売ったときに負う売主様の責任のことです。
契約不適合が発覚したときは、買主様は売主様に対して修繕または契約解除、損害賠償のいずれかを請求することができます。
契約不適合責任による契約解除があるとすれば引き渡し日以降である為、手付解除とは異なります。
契約不適合の発覚による解除は、些細な契約不適合で解除できるわけではありません。
その契約不適合によって契約の目的が達せられないときに限り解除できるものとされています。
手付金に関するトラブルを防ぐ為のポイント
手付金に関するトラブルを防ぐ為のポイントについて解説します。
買主様・売主様共通のポイント
買主様にも売主様にも共通のポイントとしては、売買契約書をしっかりと確認するということです。
特に、手付解除期日はしっかりチェックしておく必要があります。
手付解除期日は、売買契約書の表題部の表の中にわかりやすく記載されていることが一般的です。手付解除期日までは「手付解除ができる」または「手付解除をされる可能性がある」ことを認識しておく必要があります。
売主様のポイント
売主様は、ローン特約の解除期限まで手付金を使い込まないという点に注意が必要です。
ローン特約も、解除ができる期限が定められており、売主様は、万が一、買主様が住宅ローンの本審査に通らなかった場合、手付金を返還しなければなりません。
ローン特約の解除期限までに手付金を使い込んでしまい、手付金を返せなくなるとトラブルになることがあります。
少なくともローン特約の解除期限までは手付金を返せる状態にしておきましょう
また、売却後に契約不適合責任による契約解除等の責任を負わない為にも、不具合は正直に買主様に告知することも不要な負担を防ぐ対策となります。
買主様のポイント
買主様は、売買契約日に手付金を支払えるように準備をしておくことがポイントです。
例えばATMで引き出す場合、1日当たりの限度額によって手付金を引き出すのに数日かかってしまうこともあります。その為、手付金は早めに準備をしておくことをお勧めします。
不動産売買においては手付金の保全措置があります。
保全措置とは、不動産会社が引き渡しまでに倒産などをした場合でも手付金が取り戻せるという措置のことです。具体的には、手付金が売買金額の10%または1,000万円を超える場合に措置を受けることができます。
したがって、不動産会社が売主の場合は、不動産会社が手付金の保全措置を講じます。
一方で、個人の売主様には手付金の保全措置はありません。その為、不動産会社から直接物件を購入する場合は保全措置を受けられるかどうか把握しておきましょう。
まとめ
ここまで、不動産の手付金について解説してきました。
手付金は売買契約が締結している証であり、契約を解除する際の違約金の役割も果たします。ただし、手付解除期日以降に契約を解除したいという場合は手付金に関するトラブルが発生しやすくなる為、万が一に備えて本記事で紹介した対処方法を知っておくと良いでしょう。
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※本記事の内容は2023年2月14日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。