2023.11.20インスペクションのメリットは?流れや費用相場、検査項目などを解説

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欧米では主流になりつつある中古住宅のインスペクション。マンションの売買を検討している方であれば聞いたことがあるかもしれません。
この記事では、インスペクションの検査項目や活用するメリット、実際に依頼する場合の流れなどを解説します。

インスペクションとは?

インスペクションとは「調査」「検査」「点検」を意味する英単語です。
住宅におけるインスペクションとは、建築士など建築に精通した者が第三者的な立場で建物の雨漏りや基礎や外壁のひび割れといった劣化状況などを調査することです。インスペクション以外に「建物状況調査」と呼ばれることもあります。

インスペクションが注目されている理由

すでに欧米では広く活用されているインスペクションですが、日本で注目され始めたのは2018年4月1日の宅地建物取引業法(宅建業法)の法改正がきっかけといえるでしょう。

中古住宅の取引は個人間で売買されることが多く、売主様が住宅の状況について情報提供したり、不具合について責任を負ったりするのはあまりに負担が大きすぎました。また、買主様としても住宅に問題ないかという不安がありました。
そこで、政府は売主様・買主様が安心して取引ができるよう、法改正でインスペクションの内容を盛り込みました。

法改正により、不動産会社は媒介契約書面にインスペクション業者の紹介有無を示すこと、インスペクションを実施した場合には、不動産売買契約時に重要事項説明として買主様へ説明することなどが義務づけられました。

インスペクションと既存住宅売買瑕疵保険の違い

インスペクション 既存住宅売買瑕疵保険
目的 不動産取引前に瑕疵や不具合の有無を確認してトラブルを回避する為。メンテナンスの計画を立てる為。 購入後の万が一に備えて加入する保険で瑕疵の補償を受ける為。
対象物件 新築・中古限らず住宅全般 昭和56年6月1日以降の耐震基準を満たしている中古一戸建て・中古マンション
検査範囲 主に構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分の他に給排水管など
診断会社によってはオプションを付けることもできる。
構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分(保険対象の範囲)
修繕アドバイスの有無

インスペクションに似たもので、既存住宅売買瑕疵保険があります。
瑕疵とは、物件の傷や不具合などの欠陥を意味しますが、既存住宅売買瑕疵保険は、中古住宅の検査と保証をセットにした保険制度です。

既存住宅売買瑕疵保険に加入することで、引き渡し後に売買された中古住宅の構造耐力上主要な部分や、雨水の侵入を防止する部分に瑕疵が見つかった場合には、補修費用などの保険金が支払われます。

ただし、既存住宅売買瑕疵保険は全ての中古住宅で利用できるわけではありません。加入するには、新耐震基準に適合していること(昭和56年6月1日以降の耐震基準)、インスペクションに合格していることという要件を満たさなければなりません。

なお、既存住宅売買瑕疵保険に加入する為の要件であるインスペクションは、保険の対象部位に限られ、修繕のアドバイスなどは受けられません。その為、住宅を網羅的に検査してもらいたい場合は、修繕のアドバイスも含めたインスペクションを依頼することをお勧めします。

【売主様】インスペクションのメリット・注意点

売主様側の立場で、インスペクションを受けるメリットと注意点を紹介します。

売主様側のメリット

事前にインスペクションを行なうことで自分でも把握していない瑕疵を知ることができる為、トラブルを未然に防ぐことができるのがメリットです。不動産売買において売主様は契約不適合責任(引き渡し後、一定期間内に瑕疵が見つかった場合、売主様の費用負担で補修や改修を行うというもの)を負います。その為、万が一雨漏りなどが見つかった場合は、買主様から高額の修理費用を請求される恐れもあります。

しかし、事前にインスペクションを行なうことで自分でも把握していない瑕疵を知ることができる為、このようなトラブルを未然に防ぐことができます。

またインスペクションを実施していることにより、インスペクションをしていない物件との差別化にもつながります。買主様にとっても購入時の安心材料となり、結果として売主様の理想の値段で売れる可能性が高くなります。

売主様側の注意点

インスペクションにより不具合が見つかった場合、それを理由に買主様から値引き交渉をされる恐れがあり、不具合の程度によっては売却が難しくなることも考えられます。

不具合を修理する場合は、別途費用が発生します。また不具合の程度によっては修繕に時間がかかる為、引き渡し時期が遅くなることも考慮しなければなりません。

【買主様】インスペクションのメリット・注意点

買主様側の立場で、インスペクションを受けるメリットと注意点を紹介します。

買主様側のメリット

売主様側のメリットでも説明したように、インスペクションの実施によって売主様も気付いていない瑕疵の有無が分かるので、安心して中古住宅を購入することができます。

また購入前に物件の欠陥や修繕すべき箇所が分かる為、物件購入後に必要になる修繕やリフォームを想定でき、資金計画を立てやすくなります。また、購入代金が妥当であるか判断する材料にもなります。

買主様側の注意点

買主様の希望でインスペクションを行う場合、売主様の承諾を得る必要があります。インスペクションを実施して、その結果を受け取るまでに時間がかかります。もし他に購入希望者が現れた場合、先に購入されてしまう恐れがありますので注意が必要です。

インスペクションの費用相場と負担する方は?

インスペクション自体は義務ではありません。したがって基本的には希望した方が費用負担するのが一般的です。

インスペクションを行うタイミング

売主様がインスペクションを行う場合は、物件を売り出す前に行います。前述した通り、インスペクション済みであることをアピールできれば、他の物件との差別化ができます。また、買主様との契約中に不具合が発覚してトラブルになるのを未然に防げます。

一方で、買主様の場合は、購入するか否かの判断をする為に基本的に内覧後で売買契約の前に行います。売主様の承諾が必要になる為、不動産会社の担当者に相談しましょう。

インスペクションの流れ

インスペクションを依頼する場合の流れについて、7つのステップで説明します。

インスペクションの流れ画像

➀不動産会社から業者を紹介してもらう

不動産売却を依頼する不動産会社が決まったら、媒介契約を結びます。その際にインスペクションについて説明がありますので、不動産会社にインスペクションを行う業者を紹介してもらいましょう。もちろんすでに依頼したいインスペクション業者が決まっている場合は、不動産会社から紹介してもらう必要はありません。

買主様がインスペクションの実施を希望する場合、まずは不動産会社の担当者に相談し、売主様から承諾をもらう必要があります。
売主様から承諾を得られたら、不動産会社にインスペクションを行う業者を紹介してもらいます。もし依頼したい業者が決まっている場合は、不動産会社から紹介してもらう必要はありません。

➁インスペクション業者を決める

不動産会社からインスペクションを行う業者を紹介してもらう際、複数の業者を紹介してくれる場合もあるでしょう。業者によって検査項目や費用、オプションで依頼できる内容などが異なりますので、取り寄せた資料やホームページに記載された内容から比較検討し、依頼先を決定します。
迷ったら不動産会社へ相談したり、実際に依頼した方の評判などを調べてみたりすると良いでしょう。

➂申し込みをする

インスペクションを依頼したい旨を業者へ連絡し、実際の費用や、混み具合を確認します。
また申し込み時にある程度住宅の情報を伝える必要があります。連絡をする前に以下の内容について確認しておくとスムーズに話を進めることができます。また必要書類についてもこの時点で確認しておきましょう。

  • 住宅の住所
  • 物件の種類(マンション・一戸建て)
  • 建物の構造(木造・ツーバイフォー・軽量鉄骨・鉄筋コンクリートなど)
  • 建物の広さ(一戸建ての場合は各階の床面積、マンションであれば専有面積など)
  • 建築年月日や築年数
  • 修繕やリフォームの有無・不具合の内容

➃必要書類を作成し送付する

依頼するインスペクションを行う会社によって多少異なりますが、マンションのインスペクションを依頼する場合に、必要になる書類の例は以下の通りです。なるべく資料が揃っていることが望ましいですが、全てなければ依頼できないということではありません。

【必要書類の例】
  • 販売図面や間取り図(購入時のパンフレッドなどでも可)
  • マンションの長期修繕計画表、管理規約
  • 専有部分のリフォームや修繕の記録
  • 建物の登記事項証明書
  • 建築確認済証や検査済証
  • 確認台帳記載事項証明
  • 新築時の建設住宅性能評価書
  • 新築時の住宅瑕疵担保責任保険の付保証明書
  • 既存住宅に係る建設住宅性能評価書(耐震等級1以上であるもの)
  • 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書
  • 耐震基準適合証明書

➄依頼者立会いのもと検査を受ける

立会いは必須ではありませんが、基本的には依頼者は立ち会うことをお勧めします。診断報告書で結果はわかりますが、調査内容や調査結果を詳しく理解する為には実際に物件を見ながら説明を受けたほうが良いでしょう。また疑問点があったとしても、その場で質問することができます。

物件の種類や大きさ、検査項目の数によって多少異なりますが、一般的な所要時間は一戸建ての場合は3〜5時間、マンションの場合は1〜2時間程度です。追加でオプションを依頼した場合は、さらに時間がかかる場合もある為、あらかじめ担当者に確認しておきましょう。

➅診断結果を受け取る

立会いのもと検査を受けた場合、その場である程度診断結果を聞くことができます。
詳細な診断結果を受け取れるまでには、物件の種類やオプションの有無などによっても異なりますが、数日程度かかることがあります。その為、申し込み時にあらかじめ診断結果を受け取れるまでの期間を確認しておくと安心です。

⑦診断料金を支払う

診断結果に問題がなければ、費用を支払います。
一戸建ての場合とマンションの場合では費用も多少異なりますが、4.5~6.5万円程度が相場です。追加でオプションを依頼した場合はプラスで費用がかかります。

一戸建ての場合は屋根裏や床下などがある為、点検する範囲が多くなり、マンションに比べて高額になるケースもあります。

インスペクションで見られる項目

マンション、一戸建てのインスペクションを行う場合、検査対象となる箇所と検査方法は以下の通りです。基本的には同じ視点で点検しますが、構造によって多少内容が異なります。

マンションの場合

マンションの場合は、構造に応じて鉄筋や鉄骨が腐食していないか、専有部分に傾斜がないか、コンクリートに幅0.5ミリ以上のひび割れがないかなどを点検します。また雨漏りや水漏れの形跡の有無や、給水管から赤水(サビ)が出ていないか、排水管が詰まっていないか、換気ダクトがきちんと作用しているかなどを確認します。

検査項目 検査対象箇所 検査方法
構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの 壁、柱、梁 目視、計測
雨漏り・水漏れが発生している、または発生する可能性が高いもの 部屋の天井、内壁 目視
設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの 給排水管、給湯管、換気ダクト 目視、通水の確認

引用:国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」

一戸建ての場合

一戸建ての場合も基本的にはマンションと同じように点検します。
建物の構造が木造であればシロアリの被害や腐朽の有無、鉄骨造であれば腐食、鉄筋コンクリートであれば腐食に加えて接合部分の不良がないかなど確認します。
雨漏りや水漏れについては屋根葺き材や壁材に欠損がないか、シーリング材に破断がないかチェックします。給排水についてはマンションと基本的には同じで、赤水(サビ)の有無や、排水管の詰まり、換気ダクトの作用状況などを点検します。

インスペクションに関するよくある質問

ここからはインスペクションに関する、よくある質問を紹介します。

実施日の立ち合いは必要?

実施日の立会いは、必ずしも必須ではありませんが、インスペクションの依頼者はなるべく立ち会うことをお勧めします。
詳細な診断結果は検査後数日のうちに書面で受け取ることができますが、専門用語などもある為、注意すべき箇所の説明はその場で受けたほうが分かりやすいでしょう。

買主様のなかには、診断結果次第で購入するかを決めようと考えている方もいるでしょう。その場である程度物件状況を判断できることもあり、スムーズに売買を進める為にもぜひ立ち会って行うようにしましょう。

インスペクションの費用を抑えることはできる?

都道府県や市区町村によっては、インスペクションに対して補助金制度を用意している場合があります。ただし、補助金制度によっては期限や予算が定められており、すでに終了している場合もあります。
実際には自治体へ直接お問い合わせのうえ、詳細をご確認ください。

実施している機関を、参考として紹介します。

実施機関 補助金の概要
滋賀県
  • 対象者:中古住宅の売主様もしくは買主様
  • 交付額:インスペクションにかかる費用の1/2まで(上限5万円)
  • 対象となる住宅:市町の空き家バンクに登録されている住宅、もしくは立地適正化計画で定める「居住誘導区域」等に立地する住宅のいずれかが対象
兵庫県
  • 対象者:中古住宅の売主様もしくは買主様
  • 交付額:インスペクションにかかる費用もしくは25,000円のいずれか低い額
  • 対象となる住宅:売買を予定している既存の一戸建て住宅で、店舗等併用住宅の場合は、床面積の過半が居住用であることが条件
墨田区
  • 対象者:改修、売却、賃貸などによる住宅の利活用を検討している住宅所有者
  • 交付額:インスペクションにかかる費用の1/2まで(上限5万円)
  • 対象となる住宅:居住用の住宅が対象で、事業用住宅は対象外

出典:滋賀県「既存住宅状況調査(インスペクション)に対する補助金」(更新2023年4月28日)

出典:兵庫県「ひょうごインスペクション実施支援事業」(更新2023年5月15日)

出典:東京都墨田区「墨田区既存住宅状況調査(インスペクション)支援制度(更新2023年7月25日

インスペクションでどのような不具合を見つけられる?

例えばインスペクションでは、以下の項目を点検します。

  • 建物の傾き(床や柱)
  • 床が水平でない
  • 壁が直角でない
  • 換気ダクトの接続不良
  • 雨漏り・漏水
  • シロアリの被害
  • 外壁のシーリングの破断
  • バルコニーにある防水層のひび割れ

基本的に依頼先によってインスペクションする箇所に大きな違いはありませんが、会社によって異なるオプションを設けている場合もあります。またオプションを依頼する場合は、費用がいくらかかるのかも確認しておきましょう。

気になる箇所が網羅されているかもチェックしたうえで、依頼することが大切です。

インスペクション業者を選ぶ際のポイントは?

インスペクションを行う業者を選ぶ際は、以下のようなポイントを確認しましょう。

  • 調査報告書に記載された内容(診断する内容)が分かりやすいか
  • 診断結果を踏まえた修繕のアドバイスがあるか
  • インスペクションの実績が豊富であるか
  • 依頼する建物の構造に精通しているか
  • 明確に料金が記載されているか
  • 希望する箇所に対応できるか
  • オプションの有無とその料金はどうか
  • 一級建築士が在籍しているか
  • 問い合わせ時の対応・コミュニケーション能力はどうか

ホームページなどに調査報告書の参考例があれば確認します。診断内容や、将来必要になる修繕についてアドバイスが記載されているのかチェックします。

もし調査報告書の参考例が記載されていない場合は、見積書などとともに資料を取り寄せましょう。一級建築士の在籍の有無や問い合わせ時の対応など、総合的に判断します。

まとめ

インスペクションは安価なものではありませんが、売主様・買主様双方にとって大きなメリットがあります。
売主様にとっては他の物件との差別化につながり、理想的な価格で売却しやすくなります。また引き渡し後のトラブルを未然に防ぐ為の保険にもなるでしょう。
買主様にとっては購入物件を選ぶうえでの判断基準や安心材料になったり、引き渡し後の建物の修繕について資金計画を立てやすくなったります。
長谷工の仲介では、売却までのサポートに加えて引き渡し後の不安も解消するアフターサービスも充実しています。

また、売却に関する無料相談も受け付けています。売却を検討している方はもちろん、なにから始めたら良いか分からないという方も、まずはお気軽にご利用ください。この記事でご紹介したインスペクションについてもぜひご相談ください。

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※本記事の内容は2023年11月20日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。

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この記事の著者

桜木理恵
私鉄系不動産会社にて仲介営業を約8年、大手ハウスメーカーのグループ会社にてリフォーム営業を5年従事した経験を活かし、現在不動産Webライターとして活動。保有資格は宅地建物取引士・管理業務主任者・2級ファイナンシャルプランニング技能士

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