
賃貸物件(事業用)の運用やマイホーム(居住用)の売却では、確定申告時に建物の減価償却費を計算することが必要です。
事業用と居住用では減価償却を行うタイミングと求め方が異なる為、自分の目的に合わせて適切に計算することが望ましいといえます。
この記事では、減価償却の仕組みや不動産売却時の計算方法などについて解説します。
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建物や不動産における減価償却とは?
減価償却とは、償却資産(主に建物)の取得原価を法定耐用年数の間に費用として配分する会計上の手続きのことを指します。
法定耐用年数とは、建物の場合、構造別に法律で定められた減価償却費を計上できる期間のことです。
法定耐用年数は、あくまでも会計上の耐用年数であり、実際に利用できる建物の物理的な耐用年数とは異なります。
減価償却の計算が必要となるタイミングは、事業用と居住用で異なります。
アパートや賃貸マンションの事業用では、毎年の確定申告で不動産所得を求める為に計算する必要があります。
不動産所得とは、賃貸経営で得られる利益(運用益)のことを指します。
一方で、マイホームやセカンドハウスなどの居住用では、売却した翌年の確定申告で譲渡所得を求める為に計算する必要があります。
譲渡所得とは、売却で得られる利益(売却益)のことを指します。
つまり、減価償却費の計算は、事業用不動産の場合は毎年行うものであるのに対し、居住用不動産の場合は売却したときだけ行うものとなります。
減価償却の仕組み
減価償却は、建物などの償却資産は年数が経過すると資産価値が落ちるという会計上の考え方と整合性を保つ為に行うものです。
例えば、事業用不動産の場合、木造の法定耐用年数は22年となっています。
これは、木造の建物は22年で資産価値がほぼゼロ円になるという考え方を採用しているということです。
木造の建物の建築費が4,400万円の場合、22年かけて資産価値をゼロ円にするには、毎年約200万円ずつ減価償却費を計上することになります。
減価償却費は費用という名称になっていますが、先述した通り会計上の考え方を実現する為の費用です。その為、実際に支出をともなうものではありません。
また、会計上の建物価値が、そのまま実際の資産価値に影響するというわけでもありません。
なお、土地に関しては年数が経っても資産価値は落ちないという考え方を採用しています。
その為、土地の取得費に関しては、減価償却は行われないこととなっています。
減価償却累計額との違い
減価償却費とは、1年単位で計算される減価償却の費用のことを指します。
それに対して、減価償却累計額とは、今まで計算してきた減価償却費の合計額のことです。
事業用では、毎年確定申告を行いますので、減価償却費を計算します。
一方で、居住用では、売却の翌年に確定申告を行いますので、保有期間中に生じた減価償却費の累計額を計算することになります。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」の2種類があります。
ここでは、それぞれの計算方法について詳しく説明します。
定額法
定額法とは、法定耐用年数の期間に渡り、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。
2007年4月1日以降に取得した建物の定額法による減価償却費の計算式は、以下のようになります。
なお、2007年3月31日以前に取得した建物には、旧定額法が適用されます。
旧定額法の計算式は以下の通りです。
出典:国税庁「No.2105 旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」
出典:国税庁「No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」
定率法
定率法とは、建物取得費から減価償却累計額を差し引いた未償却残高に、毎期一定の償却率を乗じて減価償却費を計上する方法です。
定率法による減価償却費の基本的な計算方法は、以下のようになります。
なお、平成28年度改正により、2016年(平成28年)4月1日以後に取得する建物付属設備および構築物の償却の方法については、定率法が廃止されました。
減価償却の計算をする際に必要な項目
ここでは、減価償却の計算をする際に必要な項目について解説します。
建物の取得価額
減価償却費を計算するには、建物の取得価額が必要です。
土地と建物の内訳価格が分からない場合、消費税額から建物の取得価額を判別する方法があります。
消費税額から建物の取得価額を求める計算式は、以下の通りです。
年代別の消費税率は、以下のようになっています。
時期 | 消費税率 |
---|---|
1989年4月1日~1997年3月31日 | 3% |
1997年4月1日~2014年3月31日 | 5% |
2014年4月1日~2019年9月30日 | 8% |
2019年10月1日~ | 10% |
また、居住用の場合は、国税庁が示す「建物の標準的な建築価額表」を用いて建築当初の建築費から建物の取得原価を求める方法もあります。
参考:国税庁「【確定申告書等作成コーナー】-住宅と土地の金額が分かれていない場合の入力方法」
建物の耐用年数と償却率
耐用年数と償却率は、事業用と居住用では異なります。
それぞれを示すと、下表の通りです。
※事業用:アパートなどの住宅を示します。償却率(定額法)は2007年4月1日以降に取得した資産のものを示します。
建物の構造 | 耐用年数(マイホーム) | 償却率(マイホーム) | 耐用年数(事業用) | 償却率(事業用) | |
---|---|---|---|---|---|
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 | 47年 | 0.022 | |
れんが造、石造又はブロック造 | 57年 | 0.018 | 38年 | 0.027 | |
金属造 | 骨格材の肉厚4mm超 | 51年 | 0.020 | 34年 | 0.030 |
骨格材の肉厚3mm超4mm以下 | 40年 | 0.025 | 27年 | 0.038 | |
骨格材の肉厚3mm以下 | 28年 | 0.036 | 19年 | 0.053 | |
木造又は合成樹脂造 | 33年 | 0.031 | 22年 | 0.046 | |
木骨モルタル造 | 30年 | 0.034 | 20年 | 0.050 |
詳しい耐用年数ごとの償却率については、国税庁のサイトを参照ください。
不動産売却時の減価償却費の計算
ここからは、不動産売却時の減価償却費の計算について解説します。
マイホームの場合
マイホーム(居住用)を売却する際は、譲渡所得(売却益)を求める為に減価償却累計額を求めることが必要です。
減価償却累計額の求め方は、以下のようになります。
ここでポイントとなるのが、経過年数です。
経過年数とは保有期間のことであり、築年数のことではありません。
居住用の場合は中古住宅を購入しても、過去に経過した築年数とは無関係に売主様が保有していた期間だけ減価償却費を計算します。
経過年数が1年未満の場合は、6ヵ月以上が1年に切り上げ処理、6ヵ月未満は切り捨て処理です。
また、譲渡所得を求めるにあたって、売却価格から取得費(物件の購入にかかった費用)を差し引く必要があり、取得費を算出する際は、減価償却費を差し引くことになります。その為、居住用の場合は、減価償却累計額が小さく計算されて、取得費を多く計上できるように配慮がなされています。
償却率が事業用よりも小さい点や、建物購入額に0.9を乗じている点が、減価償却累計額が少なく計算される配慮です。
居住用の減価償却計算の具体例を示すと以下のようになります。
建物購入価額:3,000万円
償却率:0.015(鉄筋コンクリート造)
経過年数:10年
【計算】
減価償却累計額 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
= 3,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年
= 405万円
こちらの記事では、マンション売却時の減価償却について詳しく解説しています。マイホームの売却を検討している方は併せてご覧ください。
マンション売却時の減価償却とは?計算方法や譲渡所得税との関係について解説
事業用不動産の場合
事業用不動産の場合、会計の原則通り、建物の資産価値は築年数を経過すると下落すると考えます。
その為、中古の事業用不動産を取得した場合には、すでに経過している築年数を考慮し、残耐用年数を求めるという手間が発生します。
残耐用年数は、単純に法定耐用年数から経過年数を引くのではなく、一定のルールに基づいて計算することが必要です。
残耐用年数の求め方には、大きく分けて「法定耐用年数の全部を経過している」場合と「法定耐用年数の一部を経過している」の2種類があります。
法定耐用年数の全部を経過している
法定耐用年数の全部を経過している場合とは、例えば築30年の木造アパートを中古で購入したようなケースです。
事業用の木造の法定耐用年数は22年でした。
その為、築30年の木造アパートは、法定耐用年数を全部経過したアパートということになります。
法定耐用年数の全部を経過している場合の残耐用年数の求め方は、以下の通りです。
木造の場合は法定耐用年数が22年ですので、この場合、残耐用年数は4年(=22年✕0.2)です。
残耐用年数に1年未満の端数がある場合は、切り捨て処理を行います。
「22年✕0.2」は4.4ですので、端数は切り捨てて4年になるということです。
残耐用年数を求めたら、次に中古物件の購入年次に基づいて償却率を求めます。
例えば、2007年4月1日以降に取得した場合、4年の償却率は「0.250」ですので、0.250を用いて減価償却の計算を行うことになります。
法定耐用年数の一部を経過している
法定耐用年数の一部を経過している場合とは、例えば築10年の木造アパートを中古で購入したようなケースです。
事業用の木造の法定耐用年数は22年ですので、築10年目の建物は法定耐用年数の一部を経過している物件ということになります。
法定耐用年数の一部を経過している場合の残耐用年数の求め方は、以下の通りです。
木造で築10年目の残耐用年数は以下のようになります。
= 22年 - 10年 + 10年 × 0.2
= 22年 - 10年 + 2年
= 14年
なお、残耐用年数に1年未満の端数がある場合は端数処理のルールが適用され切り捨て処理をします。
2007年4月1日以降に取得した場合、14年の償却率は「0.072」ですので、0.072を用いて減価償却の計算を行うことになります。
減価償却に関するよくある質問
減価償却に関するよくある質問について解説します。
減価償却費を計上するメリットは?
事業用の不動産の場合は、減価償却費を計上することで節税できる点がメリットです。
アパート経営などを行っている場合、不動産所得(運用益)に対して所得税が課税されます。
減価償却費は、不動産所得を計算する際に経費となる費用です。
実際に支出を伴わない費用にも関わらず、経費となることから不動産所得が小さく計算され、結果として税金も少なくなります。
一方で、不動産売却の場合には、減価償却費によって譲渡所得(売却益)が大きくなってしまうことから、逆に税金が増えてしまう場合があります。
ただし、居住用の不動産の売却では、特例を利用することで節税をすることもできます。
こちらの記事は、マンション売却に関する記事ですが不動産売却時に利用できる税金控除特例について紹介しています。税金控除の特例は、マンション・一戸建てどちらでも利用できるものもある為、詳しく知りたい方は併せてご覧ください。
マンション売却にかかる税金はいくら?計算方法や知っておきたい控除について徹底解説
居住用から事業用に用途が変わるとどうなる?
マイホームを途中から賃貸に供した場合には、減価償却の計算方法も居住用から事業用に変わります。
購入してからマイホームに供していた間は居住用として計算し、賃貸に供した以降は事業用として減価償却費の計算を行います。
事業用の定額法の償却率は、建物を取得した時期のものを用います。
出典:国税庁「No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」
まとめ
ここまで、建物の減価償却について解説してきました。
建物の減価償却は、居住用と事業用では計算方法が異なります。
マイホームの売却では、居住用の減価償却の計算方法を用います。
長谷工の仲介では、減価償却に関する相談を承っています。
減価償却について詳しく知りたい方は、「売却何でも相談」をご利用いただければと思います。
※本記事の内容は2024年2月26日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。