2024.05.21根抵当権とは?抵当権との違いやメリット・デメリット、抹消手続きの流れを解説

根抵当権とは?抵当権との違いやメリット・デメリット、抹消手続きの流れを解説画像

個人の方が利用するケースは少ないですが、抵当権の種類の一つとして根抵当権と呼ばれる権利が存在します。

根抵当権は、頻繁にお金の借り入れを行う法人や商売を行っている個人にとっては便利な仕組みです。
また、個人がマイホームを購入するときは抵当権を設定することが通常であるものの、一部の融資では個人がお金を借りるときも根抵当権を利用する場合があります。
根抵当権とはどのような権利で、抵当権とはどう違うのでしょうか。

この記事では根抵当権のメリットやデメリット、抵当権との違い、抹消手続きの流れについて解説します。

根抵当権とは?

根抵当権とは、極度額までであれば、不動産などを担保に何度でも借り入れや返済ができる担保物権のことです。極度額とは、担保する債権の最大限度額のことを指します。
担保物権とは、債務の弁済を確実にする手段のことであり、担保物権には根抵当権の他、抵当権や質権が存在します。

例えば、銀行と建築業の施工会社の間で10億円という極度額を決めておき、10億円の範囲内でお金の貸し借りを受けられるようにするのが根抵当権となります。

大きな建築現場では、着工から竣工までに1年以上もかかることもありますが、その間、施工会社は建築材料や職人の人件費の支払いが発生することが通常です。

しかし、依頼主からの報酬は竣工時にもらうことになる為、着工から竣工までの期間は施工会社の資金繰りが苦しくなることが予想されます。そこで、施工会社は銀行から一時的にお金を借りて材料費などを工面してもらいます。

工事現場で竣工時までに必要なお金が3億円であれば、根抵当権を利用して3億円を銀行から借りておき、竣工時に顧客から入金されたらその3億円を返済します。

しかしながら、施工会社は複数の工事現場に携わっていることが通常です。
その為、Aという工事現場では3億円、Bという工事現場では2億円必要になるといったように、銀行にお金を借りては返すという手続きを何度も行うことになります。

このように頻繁、かつ短期間でお金を借りたり返したりを行っている会社にとっては、極度額の範囲内でいつでもお金を借りられるようにしておくと手続きの手間を減らすことができる為便利です。

個人の方は、繰り返しお金を借りたり返したりするケースが少ない為、根抵当権の有用性がイメージしにくいかもしれません。それに対して、法人は資金繰りの為に頻繁にお金の貸し借りをすることが多い為、根抵当権は法人にとって使いやすい抵当権となっているのです。

根抵当権と抵当権の違い

根抵当権と抵当権の違い

抵当権とは、債務者が不動産を自分の手元にとどめたまま債務の担保として提供し、債権者がその担保目的物から優先的に弁済を受けることができる担保物権のことです。
債務者とはお金を借りる側、債権者とはお金を貸す側(銀行)のことを指します。

個人の方が、住宅ローンを借りてマイホームを購入するときに設定するのは基本的に抵当権です。

抵当権については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

抵当権とは?設定や抹消手続きの流れ、行使された場合の対処法についても解説

債権の設定方法

一般的に抵当権を設定する場合、担保となる不動産などの財産に対して1つの抵当権を設定します。
一方で、根抵当権では、債権者との間で極度額を決めてから権利を設定します。
極度額は、銀行が行う担保にする不動産の評価によって決められ、将来発生する不特定の債権が極度額の範囲で担保されることになります。

権利者の変更

債権が譲渡されると、担保物権も債権の譲受人である新債権者に譲渡されることを随伴性(ずいはんせい)と呼びます。

根抵当権は、不特定の債権を担保することが可能な為、特定の債権に対する随伴性がない点が特徴です。
仮に債権者(根抵当権者)と債務者の関係が離れてしまうと、根抵当権は随伴せず無担保の状態になってしまうことから、債権者を変更することが難しくなります。

一方で、抵当権は随伴性がある為、債権譲渡によって債権者を変更することが可能です。

連帯保証人の有無

被担保債権が連帯保証人の弁済などの何らかの理由で消滅すれば、担保物権もその存在意義を失って消滅します。
この性質を付従性(ふじゅうせい)と呼びます。

根抵当権は、不特定の債権を担保することができる為、明確な返済期限を定めることが難しく、特定の債権に対する付従性がない点が特徴です。その為、連帯保証人や第三者が弁済しても債権者に代位しないことになっています。
代位とは、他人の法律上の地位に代わって、その方の権利を取得し行使することです。

一方で、抵当権は設定した段階で債権が明確になる(付従性がある)為、連帯保証人による弁済が認められています。

被担保債権の特定

抵当権の場合は、「A金融機関がBさんに貸し付けた5,000万円」のように担保を受ける側の債権(被担保債権)が特定されます。
ただし、根抵当権は不特定の債権を担保することから、被担保債権を特定するのが難しくなります。その為、「AとB間で締結した金銭消費貸借契約」のように被担保債権となりえる債権の範囲が定められています。

根抵当権の被担保債権となりえる債権の範囲は、以下の通りです。

  • 債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権
  • 債務者との一定の種類の取引によって生ずる債権
  • 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権
  • 手形上または小切手上もしくは電子記録上の債権

権利の消滅方法

根抵当権は、何度もお金を借りたり返したりすることを前提に設定する権利である為、今借りたお金を返済しても消滅するわけではありません。根抵当権を消滅させるには、銀行との契約を解約する必要があります。
一方で、抵当権は元金を完済することで債権が消滅する為、抵当権も自動で消滅します。

ただし、根抵当権も抵当権も登記の記載を削除するには、抹消登記の手続きが必要です。
抵当権の抹消については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

抵当権抹消手続きの流れは?手続きが必要なタイミングやかかる費用を徹底解説

根抵当権が設定されるケース

根抵当権が利用されるのは、以下のようなケースが挙げられます。

  • 法人や個人事業主が資金繰りの為に事業資金を借りる場合
  • リバースモーゲージを利用する場合
  • 注文住宅を建てるときに住宅ローンを組む場合
  • 不動産担保型のカードローンを組む場合

1つ目は、法人や個人事業主が資金繰りの為に事業資金を借りる場合です。
前述した通り、事業者は資金繰りの為に何度も繰り返してお金を借りたり返したりすることから、根抵当権を活用しています。

2つ目は、リバースモーゲージを利用する場合です。
リバースモーゲージとは、不動産を担保にお金を借りることができる融資を指します。
リバースモーゲージは、主に高齢者を対象としたサービスです。
一定のお金を何回も借りることができるタイプのリバースモーゲージでは、根抵当権が採用されることがあります。

3つ目は、注文住宅を建てるときに住宅ローンを組む場合です。
注文住宅を建てるまでには着手金や中間金といった支払いが必要となります。
竣工までに何回かに分けてお金を借りるケースもある為、銀行によっては根抵当権が採用される場合もあります。

4つ目は、不動産担保型のカードローンを組む場合です。
通常のカードローンは無担保でお金を借りることができますが、不動産を担保に差し入れることで高額のローンを組めるケースもあります。このような不動産担保型のカードローンでは、根抵当権が採用される場合があります。

根抵当権を設定するメリット

ここからは、具体的に根抵当権を設定するメリットについて解説していきます。

極度額の範囲内で様々な借り入れが可能

前述した通り、根抵当権では極度額の範囲内であれば何度も借り入れが可能です。
例えば極度額を6億円とした場合、施工会社がA現場で3億円、B現場で1億円、C現場で2億円を借りるといった使い方をすることができます。

債権ごとに登記をする必要がない

抵当権も根抵当権も、設定や抹消をする為に不動産の登記簿謄本に登記を行うという点が共通しており、その際は登録免許税などの費用が発生します。

ただし、抵当権で頻繁にお金の借入と返済を繰り返す場合、抵当権の設定と抹消を行うたびに登記することになります。登記にはお金と時間がかかりますので、毎回登記手続きを行うのは手間がかかります。

それに対して、根抵当権であれば最初に1回だけ登記をすれば、債権者との間で取り決めた極度額内で自由にお金の借入と返済が可能になる為、手続きの手間を減らせます。

根抵当権を設定するデメリット

根抵当権を設定する際にはデメリットについても知っておくことが大切です。ここでは、具体的なデメリットについて解説します。

融資元を変更しづらい

抵当権であれば完済することで権利を消滅させることができ、抵当権を抹消させるのに債権者との交渉は不要です。

一方で根抵当権は、解約するにあたって債権者と合意を得ることが必要です。
債権者にとって債務者は利子を払ってくれる顧客である為、顧客を手放したくないという理由で債権者は解約をなかなか了承しない恐れはあります。

その為、根抵当権のほうが債権者を変更するハードルが高くなるという主張をする方もいるようです。
しかしながら、通常は債務者が借金を完済していれば債権者は解除に同意しますので、根抵当権だから解除しにくいといったケースは少ないと思われます。

根抵当権が付いた不動産の売却は難しい

根抵当権・抵当権のいずれであっても、売却するときは権利を抹消する必要があります。
根抵当権の付いた不動産を売る場合には、借入金の返済に加えて銀行との間で締結している融資の契約を解除する必要があります。そのため、場合によっては金融機関との契約解除に向けた交渉がスムーズに進まず、売却ができなかったり売却するまでに時間がかかったりするケースもあります。

根抵当権を抹消する方法

前項で、根抵当権を抹消するには金融機関の合意が必要になると説明しましたが、具体的にはどのような流れで根抵当権を抹消すれば良いのでしょうか。

金融機関と交渉する

まず、根抵当権が不要になったら、根抵当権契約を止めたい旨を銀行に打診します。
銀行に根抵当権の契約が不要になったことを伝えれば、通常は解約に応じてくれます。

ただし、契約してからすぐに解約するといったケースでは、契約内容によっては違約金や解約手数料が生じる場合があります。

元本確定をする

根抵当権を解約するには、借入金を完済している必要があります。
残債がいくら残っているのかの元本確定を行い、返済したうえで銀行に根抵当権を解約したい旨を伝えます。

法務局で抹消登記を行う

根抵当権の抹消を行う場合には、銀行から以下の書類を受領することが必要です。

  • 根抵当権者の登記識別情報または権利証(登記済証)
  • 根抵当権者が作成した解除証書
  • 登記申請に関する委任状

根抵当権抹消の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。
司法書士に依頼する場合は、司法書士手数料が発生します。
司法書士手数料は、地域や事務所によっても異なりますが、1~3万円程度が相場です。

まとめ

ここまで、根抵当権について解説してきました。
根抵当権とは、極度額を限度として不特定の債権を担保することを目的に設定される抵当権のことです。根抵当権付きの不動産を売却する場合、売却金額を判断するためには元本確定が必要になります。元本確定の手続きなども考慮して早めに相談するようにしましょう。

長谷工の仲介では「売却何でも相談」で根抵当権付きの不動産の売却に関する相談も承っています。
根抵当権付きの不動産をお持ちの方は、ご利用いただければと思います。

※本記事の内容は2024年5月21日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。

満足度の高い売却は「長谷工の仲介」で。

「知人・親族にすすめたい」そんなお客さまが90.8%!満足度の高い売却は「長谷工の仲介」で。

売却の流れをチェック!

この記事の著者

竹内英二(株式会社グロープロフィット 代表取締役)
不動産鑑定および宅建業の代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士、住宅ローンアドバイザー。大阪大学出身。
写真:竹内英二(株式会社グロープロフィット 代表取締役)

関連のおすすめ記事