2023.07.10買い替え特例とは?適用要件や計算方法、注意点について解説

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家を売却した場合、利益に対して税金がかかります。
高額な取引になる不動産では、かかる税金も数十万や100万円以上と高額になるケースも珍しくありません。
しかし不動産売却時にかかる税金は、様々な控除を適用することで節税可能です。
この記事では、買い替え時に適用できる特例について分かりやすく解説していきます。

買い替え特例とは?

マイホームの住み替えの場合、今の家の売却と新しい家の購入という2つの売買取引が発生します。
新しい家の購入費や今の家のローン返済などが関わってくるので、今の家をできるだけ高く売却したいという方も多いでしょう。しかし、高値で売却してしまうとその分かかる税金も高くなり、大きな負担となるものです。

家の売却では、売却額から取得費などを差し引いた利益(譲渡所得)の部分に税金が課せられます。税率は約20%〜40%であり、所有期間によっては高い税率が課せられます。
仮に、理想的な価格で家が売れて、1,000万円の利益が出たとしても40%の譲渡所得税がかかると約400万円納税しなくてはなりません。
このような場合に利用できる節税制度が、特定の居住用財産の買い替え特例です。

反対に、家が理想的な価格で売却できないとローン完済や住居の購入でマイナスが出てしまう場合もあるでしょう。買い替え特例のなかには、マイナスが出た場合にも適用できるものもあります。
買い替え特例を上手に活用することで、負担を減らして住み替えができるようになるでしょう。

以下では、買い替え特例について詳しく解説していきます。

買い替え特例ごとの適用要件

買い替えで利用できる特例としては、次の2種類があります。

  • 特定の居住用財産の買換え特例
  • 居住用財産の買い替えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

それぞれの概要や適用条件を詳しく見ていきましょう。

特定の居住用財産の買換え特例

特定の居住財産の買換え特例とは、マイホームの買換えで適用できる特例の一つです。
所有期間10年以上のマイホームを売却し、売却額よりも高い価格の家に住み替えた場合に適用できます。

この特例を適用することで、本来は売却時にかかる譲渡所得税を、新しく購入した家を将来売却するときまで先送りできます。
ただし、この特例は税金の免除ではなく将来への先送りという点には注意しましょう。
また、この特例を適用するには「売却する家」と「購入する家」にも一定の条件があります。
それぞれの条件を以下で確認していきましょう。

売却する物件の条件

まずは、売却する家の条件です。

  1. 自分が住んでいる日本国内にある家屋の売却である
  2. 現在住んでいない場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する12月31日までに売却している
  3. 売った年・その前年・前々年に3,000万円特別控除や他の特例を適用していない
  4. 売却代金が1億円以下である
  5. 売主様の居住期間が10年以上、かつ売却年の1月1日時点の家屋・敷地の所有期間が10年以上である

ただし、家屋を取り壊して売却する場合は以下の条件を満たしている必要があります。

  • 家屋と敷地の所有期間が、取り壊される日の属する年の1月1日時点で10年を超えている
  • 取り壊した日から1年以内に譲渡契約を結でいる、かつ住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却である
  • 取り壊してから譲渡契約までの間に賃貸駐車場など別の活用をしていない

この特例では、所有期間が10年を超えるマイホームの買い替えが対象です。
先に住み替えており今は住んでいない場合でも、上記の条件に該当すれば適用できます。
更地にしての売却でも適用できますが、その場合は更地にしてから1年以内に売買契約を締結しなければいけないので建物を解体するタイミングには注意しましょう。
また、この特例は他の特例とは併用できない為、どの特例を適用するのが最も効果的かはシミュレーションして検討することが大切です。

買い替える家の条件

購入する家の条件には次のようなものがあります。

1.床面積が50㎡以上、土地面積が500㎡以下である
2.マイホームを売却した年の前年から翌年までの3年間での購入である
3.購入したマイホームへは以下の期限までに住む
  • 売った年かその前年に取得した場合は売った年の翌年12月31日まで
  • 売った翌年に取得した場合は、取得した年の翌年12月31日まで
4.令和6年1月1日以後に入居する場合は、以下の条件を満たしている
  • 令和5年12月31日以前に建築確認を受けている
  • 令和6年6月30日以前に建築されたもの
  • 上記以外は一定の省エネ基準を満たすもの
5.耐火建築物の中古住宅を購入する場合は、取得の日以前25年以内に建築されている、または一定の耐震基準を満たしている
6.耐火建築物以外の中古住宅の場合は取得の日以前25年以内に建築されている、または取得期限までに一定の耐震基準を満たしている
7.売主と買主が親子や夫婦といった特別な関係でない

買い替えるマイホームには床面積・土地面積・耐震基準などの条件があります。
また、居住をスタートする時期も購入した年によって決められている点や、売却が親子間といった関係では適用できない点にも注意が必要です。

居住用財産の買い替えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

この特例は、家の買換えの際売却で損失が出た場合に適用できる税制優遇制度です。
本来、売却損が出た場合は利益に課せられる譲渡所得も発生しない為、確定申告は不要となります。しかし、損失が出る場合でも確定申告してこの特例を適用すれば、損失に応じて所得税・住民税が控除できるのです。

ただし、この特例を適用するには「売却する家」「購入する家」にそれぞれ条件があるので注意が必要です。
それぞれの条件を次で見ていきましょう。

売却する物件の条件

売却する家の条件は先述した「特定の居住財産の買換え特例」とほぼ同じです。
ただし、特定の居住財産の買換え特例では売却した家・土地の所有期間が10年であったのに対し、この特例は5年と短くなっています。
また、次のような場合は適用対象外となります。

  • 売った家の敷地面積が500㎡以上の場合は、500㎡を超える部分への適用
  • 所得合計が3,000万円を超える年の適用

買い替える家の条件

新しく購入する家の条件としては、次のようなものがあります。

  • 床面積が50㎡以上である
  • 売却した年の前年1月1日から売却した年の翌年12月31日までに取得している
  • 取得した年の翌年12月31日までに居住し始める予定である
  • 購入した年の12月31日時点で残期間10年以上の住宅ローンを組んでいる

上記のように期日や面積に条件があり、10年以上の住宅ローンを組んでいることが条件という点に注意しましょう。
ただし、この特例は住宅ローン控除との併用ができるので、両方を適用することで大きな節税が見込めます。

買い替え特例の適用に必要な書類

買い替え特例を適用する場合、売却した年の翌年(2月16日から3月15日)に確定申告書に必要書類を揃えて申告しなければなりません。必要書類には、次のようなものがあります。

特定の居住用財産の買換え特例

特定の居住用財産の買換え特例 居住用財産の買い替えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告付表兼計算明細書)
  • 売った家を購入した際の売買契約書と売却したときの売買契約書
  • 売った家の所有期間を証明できる登記事項証明書などの書類
  • 購入した家の登記事項証明書や売買契約書の写し
  • 購入した家の建築済証や確認済証
  • 耐震基準適合証明書(中古物件の場合)
  • 住民票(住所が異なる場合)
  • 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
  • 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書
  • 売った家の所有期間を証明できる登記事項証明書や売買契約書
  • 購入した家の登記事項証明書や売買契約書
  • 年末時点の住宅ローン残高証明書
  • 住民票(住所が異なる場合)

必要書類は、適用する特例や購入する家の性能などによって異なるので、事前に確認して準備しましょう。

確定申告について不安がある場合は、税理士や期間中に設けられる自治体の確定申告相談コーナーなどを活用することをお勧めします。
確定申告の具体的な手続き内容や書類の書き方については、こちらの記事で詳しく解説しますのでご覧ください。

マンション売却の確定申告書の書き方は?手続きの流れも併せて解説
マンションを売却したら確定申告が必要?流れや手順、必要書類について徹底解説

買い替え特例を利用する際の注意点

買い替え特例を利用する場合は、以下が注意点です。

  • 併用できない特例がある
  • 税金をまとめて納付することになる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

併用できない特例がある

マイホームの売却では、様々な控除が用意されています。
しかし、なかには買い替え特例と併用できるものとできないものがあるので注意しましょう。
主な控除との併用は次の通りです。

  • 3,000万円特別控除【併用不可】
  • 10年超所有期間軽減税率の特例【併用不可】
  • 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除【併用不可】
  • 住宅ローン控除【特定居住財産の買換え特例は併用不可/譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例は併用可】

基本的には、他の特例の併用はできません。
ただし、住宅ローン控除についてはマイナスが出た場合の繰越控除の特例のみ適用できるので活用すると良いでしょう。

税金をまとめて納付することになる

先述したように、特定居住財産の買換え特例は税金の支払いがなくなるわけではなく、先送りした分を将来まとめて支払うことになります。

将来家を再び売却する予定であれば、今回3,000万円特別控除を適用して今回支払う税金の負担を減らしたほうが有利になる可能性があります。
一方で、将来売却する予定がなければ買い替え特例を活用したほうが他の特例よりも節税が期待できるでしょう。
とはいえ、将来家をどうするかは予測できない為、慎重に判断することが大切です。
詳しい税額については、以下でシミュレーションしていますので参考にしてみてください。

買い替え特例を利用した際の税金はどうなる?

買い替え特例を利用した際の税額についてシミュレーションする前に、譲渡所得税の計算方法を把握しておきましょう。

家の売却では売却益は譲渡所得に区分され、額に応じて譲渡所得税が課せられます。
譲渡所得は、次の計算方法で算出できます。

譲渡所得 = 譲渡価格 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費とは、家の購入にかかった費用であり、売却した家の購入代金だけでなく購入時に不動産会社に支払った仲介手数料や印紙税なども含まれます。
ただし、実際に計算する場合は、購入時の合計額から経過した年数に応じた減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費の計算式は以下の通りです。

減価償却費=建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数(1年未満の端数は、6月以上は1年、6月未満は切り捨て)

なお、償却率は建物の構造によって異なり、非事業用(マイホームなど)で、木造であれば耐用年数は33年(償却率は0.031)となります。

減価償却費の具体的な計算方法や注意点については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

マンション売却時の減価償却とは?計算方法や譲渡所得税との関係について解説

譲渡費用は、売却する際にかかった印紙税や売却時に支払った仲介手数料などの費用です。
売却価格からこれらの費用を差し引いた額が譲渡所得となります。

譲渡所得税は、譲渡所得に税率を乗じて算出できます。
税率は所有期間に応じて異なり、次の通りです。

所得の種類 所有期間 所得税率 住民税率 復興特別所得税 合計税率
短期譲渡所得 5年以下 30% 9% 0.63% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15% 5% 0.315% 20.315%

参考:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」
参考:国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」

所有期間が5年以下と5年超では大きく税率が異なるので注意しましょう。
また、所有期間を判定する基準日は売却した年の1月1日です。
実際の所有期間は5年超えていても、1月1日時点で5年経過していなければ短期譲渡所得税となるので所有期間は意識して売却するようにしましょう。

売却によって利益が発生した場合

ここからは、実際に優遇措置を適用した場合の税額をシミュレーションしていきます。

マイホームの売却で利益が出た場合に適用できる優遇措置として代表的なものに3,000万円特別控除があります。
前述した通り、3,000万円特別控除は借り換え特例とは併用できないので、どちらがお得になるかを計算して判断することが大切です。
ここでは、2つの特例をそれぞれ適用した場合の税金について計算してみていきましょう。

次の条件で譲渡所得と譲渡所得税を計算します。

  • 売却額:6,000万円
  • 取得費:1,500万円
  • 譲渡費用:500万円
  • 所有期間10年
6,000万円-(1,500万円+500万円)=4,000万円(譲渡所得)
4,000万円×20.315%(長期譲渡所得税の税率)=812.6万円(譲渡所得税)

3000万円控除を適用した場合

【条件】
  • 売却額:6,000万円
  • 取得費:1,500万円
  • 譲渡費用:500万円
  • 所有期間10年
【計算式】
譲渡所得=6,000万円-(1,500万円+500万円)-3,000万円(特別控除)=1,000万円
譲渡所得税=1,000万円×14.21%=142.1万円

上記の場合、特例適用前の譲渡所得は4,000万円ですが、ここから3,000万円差し引くので、所得額は1,000万円となります。
譲渡所得税は長期譲渡所得の税率で課税されるので、1,000万円×20.315%=203.15万円となるのです。
ただし、所有期間が10年を超えている場合「10年超所有軽減税率の特例」も適用でき、適用した場合の税率は14.21%まで引き下げられます。
上記の例でこの特例を適用できれば、譲渡所得税額は142.1万円となるのです。

特定の居住用財産の買換え特例を適用した場合

次に同じ条件で、特定の居住用財産の買換え特例を適用した場合を計算してみましょう。

【条件】
  • 売却額:6,000万円
  • 取得費:1,500万円
  • 譲渡費用:500万円
  • 所有期間10年
【計算式】
譲渡所得=6,000万円-(1,500万円+500万円)=4,000万円
譲渡所得税=4,000万円×20.315%=812.6万円
特例適用で812.6万円は将来に繰り延べ
→売却した年の譲渡所得税:0円

上記の場合、譲渡所得から控除できるものはないので4,000万円に対して税率20.315%で課税されます。
しかし、特例を適用することでこの年の課税を繰り延べできる為、売却年に支払う税金はありません。
それぞれの売却した年での譲渡所得税をまとめると次の通りです。

  • 特例適用なし:812.6万円
  • 3,000万円特別控除:203.15万円
  • 3,000万円特別控除+10年超所有軽減税率の特例:142.1万円
  • 買い替え特例:0円(812.6万円を将来に繰り延べ)

このように、適用する特例の種類によって納税額が大きく異なります。
売却利益が3,000万円を超える場合は、買い替え特例を適用することでその年は大きく節税可能です。
ただし、繰り延べた812.6万円の税金は、将来購入したマイホームを売却した際に上乗せされる為、将来的には負担が大きくなる恐れもあります。

どちらの特例を適用するかは、長期的な計画も踏まえて検討するようにしましょう。

売却によって損失が発生した場合

売却では必ずしも利益が出るとは限りません。
不動産は築年数が経過するごとに資産価値が低下する為、売却損が出てしまう恐れもあるでしょう。
ここでは売却損が出た場合の特例の適用についてシミュレーションしていきます。

【条件】
  • 売却額:2,5000万円
  • 取得費:3,500万円
  • 譲渡費用:500万円
  • 所有期間10年
  • 給与所得:年間600万円(所得税・住民税約50万円)

  • 【計算式】
    譲渡所得=2,500万円-(3,500万円+500万円)=-1,500万円

    上記の売却では、1,500万円の損失が出ています。
    その為、居住用財産の買い替えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用ができます。
    適用した場合の所得税は次の通りです。

    給与所得 繰越控除 残りの譲渡損失 所得税・住民税
    売却年 600万円 - ▲900万円 生じない
    2年目 600万円 ▲900万円 ▲300万円 生じない
    3年目 600万円 ▲300万円 0円 生じる

    売却年の課税所得:600万円-1,500万円=-900万円(所得税・住民税は生じない)
    所得がマイナスになる為、所得税はかかりません。
    また、この年だけでは控除できなかった900万円は次の年以降繰越せます。

    • 2年目:600万円-900万円=-300万円(所得税・住民税は生じない)
    • 3年目:600万円-300万円=300万円(所得税・住民税が生じる)

    このように、2年目までは所得税・住民税の課税がなく、3年目も所得を大きく抑えられるので税負担を軽減できるのです。

    まとめ

    ここまで、買い替え特例について適用条件や具体的なシミュレーションなどを解説してきました。マイホームを買い替える場合、売却利益に譲渡所得税がかかります。
    しかし、買い替え特例を適用することで譲渡所得税を繰り延べられ、税負担を大きく抑えることが可能です。ただし、将来に繰り延べるだけで免除ではない点に注意しましょう。
    また売却損が出た場合でも、特例の適用で所得税の軽減が見込めます。
    税金に関しては必ず税理士に相談ください。
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    ※本記事の内容は2023年7月10日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。

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    この記事の著者

    逆瀬川 勇造(合同会社7pockets 代表社員)
    明治学院大学卒。銀行、不動産会社勤務を経て独立。宅地建物取引士、FP2級技能士(AFP)、住宅ローンアドバイザー。

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