所有期間が5年を超えるマンションを売却したときに生じる所得(利益)を、「長期譲渡所得」と呼びます。
長期譲渡所得とは、一体どのようなものなのでしょうか。
この記事では、長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いや税金の計算方法などについて解説しています。
不動産の売却のお問い合わせやご相談は「長谷工の仲介」へ
長期譲渡所得とは?
不動産を売却することで得られる所得のことを譲渡所得といいます。
譲渡所得は、売却した年の1月1日時点において、所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」と5年以下の「短期譲渡所得」に分けられます。
例えば、2023年内で売却するマンションは、2023年の1月1日の時点で所有期間が5年経過しているかどうかで判断される為、2017年12月31日までに取得したものであれば長期譲渡所になります。
また、不動産の売買では一般的に「売買契約日」と「引き渡し日」が異なることから、取得した日や売却した日をどちらで判定するか疑問に思うかもしれませんが、原則として取得日も売却日も「引き渡し日」となります。
短期譲渡所得との違い
長期譲渡所得は、短期譲渡所得よりも税率が低い点が特徴です。
バブル時は短期的に土地を売買して売却益を得る投機的取引が流行り、土地価格の異常な高騰を招きました。そこで投機的取引を抑制し、不動産の長期保有を促す為に、長期譲渡所得の税率が低く設定されました。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率をまとめると、下表の通りです。
所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | 復興特別所得税 | 合計税率 |
---|---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
復興特別所得税の税率は、厳密には長期譲渡所得も短期譲渡所得も所得税に対して2.1%を乗じて求めるものであり、税率はいずれも同じです。
「所得税に対して2.1%を乗じるもの」であることから、短期譲渡所得なら0.63%(=0.3✕0.021)、長期譲渡所得なら0.315%(=0.15✕0.021)となります。
長期譲渡所得の税金はどのように計算する?
マンションを売却したことで譲渡所得が生じる場合は、譲渡所得税を納付しなければなりません。
譲渡所得の計算方法は、以下の通りです。
ここからは、長期譲渡所得の譲渡所得税の計算方法の他に、取得費や譲渡費用、特別控除についても説明します。
譲渡価額を算出する
譲渡価額とは、主に売却額のことです。
マンションの売買では、買主様との間で固定資産税や都市計画税の清算を行なうことがよくあり、譲渡価額は売却価格に固定資産税清算金を加算して求める場合もあります。
取得費を求める
まずは、取得費を求めます。
取得費とは、原則として土地と建物の購入額ですが、以下のものも含めることができます。
- 購入当時の登録免許税や不動産取得税
- 借主様のいるマンションを購入する際に支払った立退料
- 所有権などを確保する為にかかった訴訟費用
- すでに締結されている不動産の売買契約を解除して、他の物件を取得した場合に支払った違約金
- 増改築などにかかったリフォーム費用
- 購入時にかかった印紙代や仲介手数料
建物の取得費は建物購入額から減価償却費を控除して求めます。
減価償却費とは、資産購入にかかる費用を耐用年数に応じて配分・計上したものです。
マイホームのマンションを売却したときの減価償却費の計算式は、以下の通りです。
償却率は建物の構造によって決まります。
マンションに多い「鉄筋コンクリート造」または「鉄骨鉄筋コンクリート造」の償却率は下表の通りです。
構造 | 非事業用(マイホームなど)の償却率 |
---|---|
鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
経過年数とは所有期間のことですが、ここでいう所有期間は実際に所有した期間のことであり、長期譲渡所得や短期譲渡所得で利用する所有期間とは異なります。
経過年数は1年単位であり、端数が6ヵ月以上の場合は1年切り上げ、6ヵ月未満の場合は切り捨てです。
マンションの減価償却については、こちらの記事で詳しく紹介していますのでご覧ください。
マンション売却時の減価償却とは?計算方法や譲渡所得税との関係について解説
譲渡費用を求める
譲渡費用とは売却に要した費用のことです。
譲渡費用に「なるもの」と「ならないもの」を例示すると以下のようになります。
譲渡費用に認められるもの | 譲渡費用に認められないもの |
---|---|
|
|
譲渡所得から特別控除を差し引く
一定の要件を満たす不動産を売却した場合、節税の特例を利用することができます。
ここでは、マイホームのマンションを売却したときに利用できる特例を紹介します。
3,000万円特別控除
3,000万円特別控除とは、居住用財産(一定の要件を満たすマイホームのこと)を売却したときに利用できる特例です。
譲渡所得から、3,000万円を差し引くことができ、仮に譲渡所得がゼロ円もしくはマイナスとなった場合には、税金は発生しないことになります。
3,000万円特別控除を利用できる要件は以下の通りです。
マンションの場合は主に「1.」または「2.」となります。
- 居住している家屋および敷地を売却する
- 売却年の前年および前々年にこの特例や、譲渡損失に関する損益通算及び繰越控除の特例、マイホームの買換え特例、マイホームの交換特例を受けていない
- 売却する家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除などを受けていない
- 転居してから3年後の12月31日までに、居住していた家屋を売却する(この間に貸付や事業用に供していても適用となる)
- 災害などにより居住していた家屋が滅失し、災害のあった日から3年後の12月31日までに売却する
- 転居後に家屋を取り壊し、転居してから3年後の12月31日までか、取り壊し後1年以内か、いずれか早い日までに売却する(取り壊し後にその敷地を貸し付けたり、事業の用に供したりすると適用外となる)
- 買主様が親子や夫婦、親族が経営する会社でない
また、特例が適用できるのは「3年に1度だけ」となります。
参考:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
3,000万円特別控除の申請方法や必要書類については、こちらの記事で詳しく紹介していますのでご覧ください。
10年超所有軽減税率の特例
居住用財産の所有期間が10年超になると、長期譲渡所得よりもさらに税率が低くなる「10年超所有軽減税率の特例」があります。
所有期間が10年超であるか否かについても、譲渡所得と同様に売却した年の「1月1日」が基準となります。
10年超所有軽減税率の特例は、3,000万円特別控除とも併用することができます。
基本的には3,000万円特別控除を利用しても、なお譲渡所得がプラスになる方にお勧めです。
3,000万円控除10年超所有軽減税率の特例の税率は、以下のようになります。
課税譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円以下の部分 | 10% | 4% |
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円超の部分 | 15% | 5% |
復興特別所得税の税率に関しては、10年超所有軽減税率の特例を利用した場合でも、所得税に対して2.1%が発生します。
参考:公益社団法人 全日本不動産協会「マイホームを売却した場合の特別控除と軽減税率」
居住用財産の買換えなどに係る特例
居住用財産の買換えなどに係る特例は、買い替えをする場合に利用でき、購入物件の金額が売却価格よりも高い場合に税金を繰り延べできるという特例です。
繰り延べとは、今回の売却時に税金を払う必要はないものの、購入物件を将来売却したときに税金が課税されるということです。
居住用財産の買換えなどに係る特例を受けるには、売却物件での居住期間が10年以上であること、購入物件の床面積が50平米以上であることなど、一定の要件を満たす必要があります。
売却物件の譲渡価額と購入物件の取得価額との大小関係による課税方法は、下表の通りです。
大小関係 | 課税の関係 |
---|---|
譲渡価額>取得価額 | 一部課税される |
譲渡価額≦取得価額 | 繰り延べされる |
3,000万円特別控除は売却時に税金を減らすことができる特例ですので、税金を確実に減額できるという意味では、3,000万円特別控除のほうがメリットが大きいです。
「3,000万円特別控除」と「10年超所有軽減税率の特例」のセットと、「居住用財産の買換えなどに係る特例」は選択適用の関係にあり、売主様の状況に応じて選択することになります。
なお、売却時の税金負担を減らす為に各種控除を受けた場合は、購入物件の住宅ローン控除を同時に併用することができません。
その為、買い替えを検討する際は注意しましょう。
マンションの買い替えに関する注意点や税金については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
マンションを売却して住み替えたい!流れや失敗しない為のコツを解説
長期譲渡所得の場合の税金をシミュレーション
ここまで、長期譲渡所得の場合にかかる税金の種類や計算方法について解説してきました。
では、実際に長期譲渡所得の税金の計算をしてみましょう。
売却価格:8,000万円
固定資産税清算金:9万円
譲渡費用:249万円(仲介手数料:246万円、印紙税:3万円)
構造:鉄筋コンクリート造
購入時の土地価格:2,000万円
購入時の建物価格:2,000万円
経過年数:8年(所有期間は5年超)
利用できる特例:3,000万円特別控除
【計算】
譲渡価額 = 売却価格 + 固定資産税清算金
= 8,000万円 + 9万円
= 8,009万円
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
= 2,000万円× 0.9 × 0.015 × 8年
= 216万円
取得費 = 土地購入価額 + (建物購入価額 - 減価償却費)
= 2,000万円 + (2,000万円 - 216万円)
= 3,784万円
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用) - 3,000万円
= 8,009万円 ― (3,784万円 + 249万円) - 3,000万円
= 976万円
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 長期譲渡所得の税率
= 976万円 × 20.315%
≒ 198万円
税金が発生したら確定申告を忘れないように
譲渡所得税が発生したら、確定申告を行って税金を納める必要があります。
また、3,000万円特別控除などの特例を利用し、税金が生じない場合であっても確定申告が必要です。
例外的に、譲渡所得がマイナスであり、かつ、特例も利用しない方は確定申告が不要ということになります。
確定申告の時期は、原則として売却した翌年の2月16日から3月15日までの間です。
確定申告の流れや必要書類については、こちらの記事で詳しく紹介していますのでご覧ください。
マンションを売却したら確定申告が必要?流れや手順、必要書類について徹底解説
マンション売却の確定申告書の書き方は?手続きの流れも併せて解説
まとめ
ここまで、長期譲渡所得について解説してきました。
長期譲渡所得とは、売却した年の1月1日時点において所有期間が5年を超える場合の譲渡所得のことです。長期譲渡所得は、短期譲渡所得よりも所得税と住民税の税率が低くなります。
長谷工の仲介では、無料でマンション売却に関する税金の相談を行っています。
長期譲渡所得に関する相談も承っていますので、ぜひご利用ください。
※本記事の内容は2023年3月6日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。