2024.10.02認知症になった親の不動産を売却するには?成年後見制度や売却の流れを解説

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親が認知症になってしまうと、子供でも不動産を自由に売却できなくなり、売却する為に多くの手続きや書類が必要になります。親が認知症になった場合の売却方法を事前に知っておけば、適切なタイミングでスムーズに不動産を売却できるでしょう。

この記事では、認知症になった親の不動産を売却する方法やその流れをご紹介します。認知症になった親の不動産売却の方法が知りたいという方はもちろん、将来を見据えた資産管理の方法が知りたいという方も、この記事をぜひ参考にしてください。

認知症になった親の不動産は売却できない?

まずは、親が認知症になった場合に不動産を売却できるケースとできないケースをそれぞれ解説します。

売却ができないケース

そもそも不動産売買契約が成立する条件として、契約を結ぶ当事者が意思能力を有していることが必要になります。
意思能力とは法律用語で、「自分の行為によってどのような法律的結果が生じるのかを判断できる能力のこと」を指します。

つまり、認知症により意思能力を有していないと判断されると、不動産を売却できません。これは、民法で「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定められていることからもわかります。

引用:e-Gov「民法第二節 意思能力 第三条の二」

また、原則として他人名義の不動産を売却することはできません。仮に代理人を立てる際にも意思能力を有していないと、親自らが代理人を任命することができない為、子が認知症の親に代わって不動産売却を代行することもできません。

売却できるケース

認知症の症状が軽いと意思能力があると判断されるケースがあり、その場合は不動産の売却が可能です。

意思能力を有しているかどうかは個人ごとに判断されます。不動産売却の場合は、一般的に「家を売ると代金が得られる代わりに所有権がなくなる」ということを判断できる状態が、意思能力がある状態とされています。

このように、認知症でも症状の重さによって不動産を売却できる・できないが変わる為、状況をしっかりと把握し慎重に判断することが重要です。

認知症になった親の不動産を売却する方法

重度の認知症になった親の不動産は、成年後見制度を活用することで売却が可能になります。ここからは、成年後見制度について詳しく解説します。

成年後見制度とは?

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した方の為に、法律行為のサポート役を選任する制度です。成年後見制度は、判断能力が低下した方の権利と利益を守る為にあり、サポート役がいることで詐欺の被害に合いにくくなったり、不動産の売買契約などをスムーズに進められたりします。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2つの種類があります。法定後見制度とは民法にしたがって裁判所が成年後見人を選定する制度で、任意後見制度は本人が一人で物事を判断できるうちに任意後見人を選ぶ制度です。

任意後見制度と法定後見制度の違いは、次の表の通りです。

項目 任意後見制度 法定後見制度
本人の意思能力の程度 意思能力がある(と判断される) 意思能力がない(と判断される)
成年後見人の選定 自ら選定する 民法により裁判所が選定する
成年後見人になることができる方 本人が選んだ方 親族、法律や福祉の専門家など裁判所が選定した方

重度の認知症により意思能力がないと判断された場合は、法定後見制度を利用することになります。成年後見人になった方は、本人を代理して売買契約などの法律行為を行ったり、不利益な契約を白紙にしたりすることができます。

法定後見人の種類

法定後見人の種類は、「補助人」「保佐人」「成年後見人」の3種類です。
それぞれが代理可能な行為には次のような違いがあります。

種類 代理可能な行為
補助人 裁判所が定めた特定の契約や財産管理の判断の手助けをします(本人の同意必須)
保佐人 裁判所が定めた重要な契約や財産管理の同意や取消しを行います(本人の同意必須)
成年後見人 すべての法律行為を代行します

引用:中能登町「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)を知ってますか?」

参考:厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用) | 成年後見はやわかり」

補助人は、本人の判断能力低下の程度が軽い場合に選任される法定後見人です。裁判所が認めた行為に対する同意権と取消権が認められていますが、本人の判断能力低下の程度が低い為、その権限の範囲が最も限定されています。

保佐人は、本人の判断能力が相当程度低下した場合に選定される法定後見人です。財産への悪影響が懸念される重要な取引に対する同意権と取消権が認められています。

成年後見人は、本人の判断能力がほとんどなくなった場合に選任される法定後見人です。本人の意思能力がないと判断されている為、日常生活に関する行為を除く全ての法律行為に対する代理権と取消権が認められています。

法定後見制度を利用する際にかかる費用

法定後見人となる為には、家庭裁判所への申立と審判が必要です。家庭裁判所への申立にかかる費用は次の表の通りです。

補助人 保佐人 成年後見人
申立手数料(収入印紙) 1,600円 800円
登記手数料(収入印紙) 2,600円
郵送料 4,920円(東京家庭裁判所の場合) 3,270円(東京家庭裁判所の場合)
鑑定料 ほとんどの場合10万円以下(鑑定を依頼する場合のみ)

出典:厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用) | 成年後見はやわかり」

申立手数料に違いがあるのは、補助人と保佐人には代理権または同意権の付与申し立ての際に収入印紙が別途必要な為です。また、郵送料は各家庭裁判所によって異なる為、各裁判所のホームページをチェックしましょう。

鑑定料とは、精神上の障害の程度を判断する為に医師に鑑定を依頼する費用です。ただし、裁判所が明らかに必要ないと判断されると鑑定は行われず、鑑定費用も不要となります。

その他、後見人が報酬付与の申立をすれば報酬の支払いが必要になります。
成年後見人の報酬は、管理財産額が1,000万円以上5,000万円以下の場合には月額3万円~4万円程度、5,000万円を超える場合には月額5万円~6万円程度となります。
ただし、親族が後見人に選ばれた場合で報酬の請求をしなければ費用は発生しません。

出典:裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす(令和4年2月)」

成年後見制度を利用した場合の不動産売却の流れ

ここからは、成年後見制度を利用して不動産を売却する流れを、6つのステップに分けて解説します。

①地域の相談窓口へいく

成年後見制度を利用する為には、まず地域の相談窓口へ問い合わせる必要があります。相談窓口としては主に以下が挙げられます。

  • 相談支援専門員
  • 地域包括支援センター
  • 権利擁護センター
  • 社会福祉協議会
  • 成年後見センター
  • 市区町村の相談窓口
  • 成年後見制度に関わっている社会福祉士・司法書士・弁護士の団体
など

最寄りの相談窓口で、成年後見制度の流れや必要書類、費用などの説明を受けましょう。

②家庭裁判所へ申し立てをする

次に、診断書などの必要書類や手数料を用意し、家庭裁判所へ法定後見人の審判の申し立てを行います。申立書に記載された内容をもとに、家庭裁判所の職員が本人の状況確認や関係者との面談などを行い、成年後見制度の利用が妥当か否かの審理が行われます。

③裁判所が成年後見人を決定する

審理の結果に基づき、裁判所が補助人や保佐人、成年後見人などを決定します。裁判所は本人との利害関係やその他の事情を考慮して成年後見人を選ぶ為、親族を成年後見人の候補として立てたとしても、必ずしも選ばれる訳ではない点に注意が必要です。

法律や福祉の専門家が成年後見人として選ばれた場合、前述した通り報酬の支払いが必要になるケースもあります。報酬額は後見人が自由に決めることはできず、家庭裁判所が本人の財産などを考慮して金額が決まります。

④不動産会社と媒介契約を結び販売活動をする

家庭裁判所が成年後見人を決定した後は、成年後見人が通常の不動産売却と同様の手続きを進めます。不動産売却の流れは、主に以下の通りです。

  1. 不動産の査定を不動産会社に依頼する
  2. 不動産会社と媒介契約を締結する
  3. 売却活動を開始する
  4. 買主様から購入申込書を受領する

まず、不動産会社に売却査定を依頼します。査定結果を精査し、売却を依頼する不動産会社が決定すれば、不動産会社と媒介契約を締結します。その後、売却活動を開始し、購入を申し込んだ方と条件面でまとまれば、次のステップに進んでいく流れです。

売却活動に必要な不動産査定や媒介契約については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

マンション売却査定の不安を解消!査定の流れや査定でみられるポイントを徹底解説

一戸建て売却の査定価格はどう決まる?見られるポイントや査定のコツとは

媒介契約とは?契約の種類と各契約のメリットや注意点をご紹介

⑤買主様と売買契約を結ぶ

居住用不動産を売却する場合は、売買契約を締結する前に家庭裁判所の許可を得る必要があります。許可申請に必要な書類としては以下が挙げられます。

  • 本人および申立人の住民票の写し
    ※本人または成年後見人(保佐人,補助人)の住民票に変更がある場合
  • 本人の戸籍謄本
  • 居住用不動産処分許可の申立書
  • 対象不動産の全部事項証明書
  • 対象不動産の売買契約書(案)
  • 対象不動産の評価証明書
  • 売却を依頼した不動産会社が作成した査定書
  • 成年後見監督人の意見書(成年後見監督人がいる場合)

出典:裁判所「居住用不動産処分の許可の申立てについて」

上記の書類を提出した後、家庭裁判所の審判により不動産売却が承認されるかどうかが決まります。不動産売却が承認される為には、売却によって得られる資金を本人の生活費や介護費などとして利用するといった正当な理由が必要です。一方、本人や親族の意向に反している、売却価格や契約条件が適切ではない、などと裁判所が判断した場合は売却が却下される恐れがあります。

無事裁判所から売却許可が下りれば、売買契約に進みます。売買契約の流れは以下の通りです。

  1. 重要事項説明を買主様と確認する
  2. 売買契約を締結する
  3. 売買契約書に収入印紙を貼付する
  4. 手付金を受領する

重要事項説明とは、物件に関する重要な事項が記載された書面の内容を不動産会社が買主様に説明するものです。売買契約書を買主様と読み合わせて、問題がなければ署名捺印を行い契約が成立します。

売買契約が成立すれば、収入印紙の貼付、手付金の受領と続き売買契約の完了となります。
手付金とは売買契約時に買主様が売主様に対して売買価格の一部を先に支払う費用です。これは、売買契約から引き渡しまでタイムラグが発生する為、それぞれの勝手な都合で売買契約をキャンセルしないようにする保証の役割を果たします。

売買契約の流れや売買契約書の内容、手付金については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

マンションの不動産売買契約書とは?記載内容や流れを解説

不動産売却で発生する手付金とは?相場や手付解除時の対応方法について解説

⑥引き渡しと決済を行う

売買契約の締結が完了すれば、不動産を引き渡し、売買代金を受領する為の決済を行います。決済では、成年後見人、買主様、司法書士、不動産会社、金融機関の担当者などが集まり手続きを進めます。売買代金を受領し、それと同時に所有権移転登記の書類を提出すれば決済の完了です。

親が軽度の認知症の場合に不動産を売却する方法

続いて、親が軽度の認知症で意思能力がある場合の不動産売却の方法を2つ解説します。

家族信託

親の認知症が軽度で意思能力がある場合は、家族信託という方法で不動産を売却できます。家族信託とは、家族による財産管理の方法の一つで、委託者・受託者・受益者を設定して財産を管理します。もともと財産を所有している委託者が、財産の管理を受託者に任せ、その財産から発生した利益を受益者が得る仕組みです。

家族信託では、親(委託者)の財産を子(受託者)が管理し、その利益を親(受益者)が得るというパターンが多い為、委託者と受益者が同じ方になるケースがほとんどです。

家族信託のメリットと注意点は以下の通りです。

メリット 注意点
  • 相続が発生した場合の遺産分割協議が不要になる
  • 委託者の思い通りに財産を継承できる
  • 財産管理が委託者の判断能力に左右されない
  • 成年後見制度より柔軟な財産管理を行える
  • 受託者を誰も引き受けてくれないケースがある
  • 親族間で不公平が生まれ争いが起こるケースがある
  • 財産管理の制度の為、法律行為は代理できない

家族信託を個人で行う場合は、信託契約書を公正証書にする手数料(3.3万円~11万円)や不動産の登録免許税が費用としてかかります。登録免許税の税率は、建物が固定資産税評価額の0.4%、土地が固定資産税評価額の0.3%です。例えば、土地・建物それぞれの固定資産税評価額が1,000万円の場合、建物の登録免許税は4万円、土地の登録免許税は3万円となります。

家族信託を司法書士や弁護士などの専門家に依頼する方法もあります。その場合は、コンサルティング料や公正証書作成手数料、登録免許税を合わせて50万円~100万円程度かかると想定しておくと良いでしょう。高額な費用がかかりますが、安心して財産を管理したいと考えるのであれば、専門家へ依頼することをお勧めします。

生前贈与

認知症が軽度の場合の不動産売却方法としては、生前贈与も挙げられます。
生前贈与とは、生存中に自分の財産を他人へ無償で譲渡することです。亡くなった後に行われる相続とは違い、自分の好きなタイミングで財産を渡せる点が特徴です。

生前贈与のメリットと注意点は以下の通りです。

メリット 注意点
  • 相続争いを防げる
  • 相続税の節税につながる
  • 軽減特例により贈与税も節税できる
  • 贈与税の負担が発生する
  • 死亡前3年~7年の生前贈与は相続税の課税対象になる
  • 贈与者と受贈者の両方に意思能力が必要である

生前贈与の軽減特例とは「相続時精算課税制度」のことです。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫に対して、財産を贈与した際に適用される制度です。具体的には、2,500万円までの贈与財産が贈与税非課税となり、相続税の対象として相続財産に加算されます。贈与税より相続税のほうが税率は低い為、節税効果が期待できるといえます。

また、不動産を生前贈与した場合、贈与税とは別に不動産取得税と登録免許税がかかります。生前贈与を行った場合の不動産取得税の税率は、土地・建物ともに固定資産税評価額の3%(令和9年3月31日まで)です。
また、登録免許税の税率は土地・建物それぞれの固定資産税評価額に対して2%となります。例えば、土地・建物の固定資産税評価額がそれぞれ2,000万円の場合、以下の税金が課税されます。

  • 不動産取得税(土地):60万円
  • 不動産取得税(建物):60万円
  • 登録免許税(土地):40万円
  • 登録免許税(建物):40万円
  • 合計:200万円

一方、相続時の不動産取得税は、土地・建物ともに非課税、登録免許税はそれぞれ評価額の0.4%となり、生前贈与に比べ大幅に低い税率となっています。必ずしも、生前贈与が優れているわけではない為、どちらのほうが良いか慎重に検討するようにしましょう。

不動産を相続してから売却までの流れについては、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

マンション相続の手続きとは?流れや相続税の計算、利用できる控除を解説

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出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」

出典:総務省「地方税制度-不動産取得税」

まとめ

親が重度の認知症で判断能力がなくなった場合は、成年後見制度を利用し不動産を売却することができます。しかし、成年後見制度を利用した不動産売却では不動産以外の法律の知識も必要とされる為、地域の相談窓口だけでなく不動産会社への相談も並行して行うと良いでしょう。

長谷工の仲介では、成年後見制度を利用した場合など売主様のご状況に合わせた売却プランをご提案いたします。不動産売却のことなら、ぜひ長谷工の仲介にお問い合わせください。

※この記事の内容は2024年10月2日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。

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この記事の著者

杉山明熙
元不動産営業のWEBライター。
不動産営業を12年間経験し店長、営業部長として、売買仲介、賃貸仲介、新築戸建販売、賃貸管理、売却査定等、あらゆる業務に精通。
個人ブログにて不動産営業への転職のお手伝い、不動産営業のノウハウ、不動産投資のハウツーなどを発信。
不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、2級ファイナンシャルプランナー保有。
写真:杉山明熙

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