
木造住宅を評価するときに耐用年数を引き合いに出すことがありますが、一般的には法定耐用年数のことを指します。しかし、法定耐用年数は実際の家の寿命とは異なります。つまり法定耐用年数を超えたからといって、すぐに住めなくなるわけではありません。
この記事では、木造住宅の耐用年数について様々な観点で解説します。また木造住宅の寿命を伸ばす方法や、購入もしくは売却する際のポイントをご紹介しますので、木造住宅の購入や売却を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
耐用年数とは?
耐用年数というと、一般的には法定耐用年数を意味します。ほかにも物理的耐用年数や経済的耐用年数があり、それぞれ基準は異なります。ここでは、3つの耐用年数について解説します。
法定耐用年数
法定耐用年数とは、資産が使用できる期間として国税庁が定めたもので、減価償却する際に用いられます。
建物や車両、設備などの高額な資産は、取得した年に一括して経費として計上するのではなく、法定耐用年数で分割して必要経費として計上しますが、この会計処理を減価償却といいます。
法定耐用年数は建物の構造や用途によって異なり、それぞれの年数は以下の通りです。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 住宅:22年 事務所:24年 |
木骨モルタル造のもの | 住宅:20年 事務所:22年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 住宅:47年 事務所:50年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 住宅:38 年事務所:41年 |
金属造のもの | 住宅 骨格材の肉厚が 4mmを超えるもの:34年 3mmを超え4mm以下のもの:27年 3mm以下のもの:19年 |
事務所 骨格材の肉厚が 4mmを超えるもの:38年 3mmを超え4mm以下のもの:30年 3mm以下のもの:22年 |
物理的耐用年数
物理的耐用年数とは、経年劣化によりモノの性能が要求される水準を下回り、物理的に壊れるまでの年数です。建物の物理的耐用年数をいうときは、建物として使用できなくなるまでの期間をいいます。
経済的耐用年数
経済的耐用年数とは、モノの資産価値がなくなるまでの年数です。建物については経済的残存耐用年数が使われることが多く、評価時点において物理的な劣化具合を考慮し、建物の市場価値が保持される期間をいいます。
木造住宅の耐用年数と実際の寿命は異なる
法定耐用年数と実際の寿命とは異なることを説明してきましたが、木造住宅の実際の寿命はどのくらいと考えるべきでしょうか。
住宅の性能や補修状況によっても寿命は異なりますが、ここでは一般的な寿命の考え方をご紹介します。
木造住宅の一般的な寿命は65年
国土交通省は工学院大学の吉田教授・早稲田大学の小松教授らの調査結果を公表しており、2011年時点の調査では、木造住宅の平均寿命は65年という結果(※)になっています。
1997年の研究では43. 53年、2006年では54. 00年という結果となっており、近年住宅の性能が向上していることから、木造住宅の寿命も伸びていることがわかります。
参考:国土交通省「【指針参考資料5】 建物の平均寿命について 」
※木造住宅や各種用途の建物について、固定資産税台帳のデータをもとに建物の残存率を計算し、建物の残存率が50%となるまでの期間を平均寿命としています。
住宅によっては100年以上住むことができる
長期優良住宅の基礎や躯体の期待耐用年数は建材によって異なりますが、期待耐用年数は100年超とも評価されています。その為、年数や劣化に応じた修理や改修をすることで、100年以上住むことができる可能性があります。
期待耐用年数とは、今後想定される自然条件下において適切な維持管理をした場合に、使用価値を維持できる期間のことです。
長期優良住宅とは、長期にわたって安心して快適に暮らせる家の基準をクリアし、認定を受けた家のことです。耐震性能や省エネルギー性能、劣化対策などクリアすべき項目は多岐に渡ります。
出典:国土交通省土地・建設産業局不動産業課 住宅局住宅政策課「期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について(平成25年8月)」
耐用年数の見直しを求める声もある
建物の価値を評価する際は、建物の状態に関わらず築20〜25年で建物の価値をゼロと評価するケースが多く見られます。
しかし、実際のところ、築30年以上の建物も問題なく取引されており、実情と合っていないという意見もあります。また、リフォームや改修の実施による性能の向上が、建物の価値や価格に反映されていないことも多いのが実情です。
こうした課題から、耐用年数の見直しを求める声が挙がっています。
具体的には、築20年で建物の価値がゼロになるという慣行にとらわれず、実際の使用価値を反映した耐用年数を用いることが望ましいとされており、リフォームや改修の実施により使用価値が向上した場合は、その効果を建物の価値に反映するという方向性で議論されています。
参考:国土交通省「期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について」
耐用年数が必要になるケース
耐用年数が必要になるのは、どのようなタイミングなのでしょうか。ここでは耐用年数が必要になるケースをご紹介します。
不動産売却時の査定
不動産を査定する方法には、原価法・取引事例比較法・収益還元法があり、中古住宅の建物を査定する際に主に利用するのが原価法です。
原価法とは、建物を解体して同じ建物を建て替えたときにかかる原価を求め、その価格から経過年数に応じて劣化した価値を差し引いて査定額を算出する方法です。
具体的には以下のように計算します。
例えば建築費の単価を15万円/㎡、延床面積が100㎡で築11年の中古一戸建て(耐用年数22年)の場合は、以下のように計算します。
15万円×100㎡÷22年×(22年-11年)=750万円
不動産査定や不動産鑑定については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
一戸建て売却の査定価格はどう決まる?見られるポイントや査定のコツとは
不動産鑑定とは?不動産査定との違いや依頼する際の流れ、必要なケースについても紹介
売却翌年の確定申告
不動産を売却して利益が発生したときや税金の特例を利用する際は、翌年に確定申告をすることになります。課税対象となる譲渡所得は、売却価格から取得費や売却時にかかった費用、特別控除額を差し引くことで算出できます。
この取得費を求める為には、購入代金(建築費)から所有期間中の減価償却に相当する金額を差し引く必要があります。
※経過年数が1年未満の場合、6ヵ月以上は1年、6ヵ月未満は切り捨てます。
不動産売却時の減価償却費の計算方法や譲渡所得については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
建物の減価償却とは?不動産売却時の計算方法や仕組みについて解説
譲渡所得とは?不動産売却時の税金の計算から確定申告手続きまで詳しく解説
参照:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
住宅ローンの審査
住宅ローンの審査では、借り入れする方の年齢や勤務先、勤続年数といった情報のほかに、不動産の担保評価が審査されます。
万が一契約者が住宅ローンを返済できなくなった場合、金融機関は不動産を売却して資金を回収することになります。その為、金融機関が不動産の価値を把握するうえで不動産の担保評価は重要な項目になります。
担保として提供する不動産が耐用年数を超えている場合、担保評価が低く、希望する額の借入れができないことがあります。築年数が古い家の購入を検討する場合は、早めに金融機関に相談しておきましょう。
耐用年数を超えた木造住宅はどうする?
ここまで説明してきた通り、たとえ築年数がある程度古くなった住宅であっても、十分住むことができ、資産として活用することも可能です。ここでは、より具体的に耐用年数を超えた木造住宅の利用方法をご紹介します。
リフォームやリノベーションをして住む
築年数が古い住宅でも、リフォームやリノベーションで修繕が必要な箇所を直すことで、住宅の機能が向上して生活しやすくなるケースがあります。
どのような工事をすべきなのか分からないときは、インスペクション(建築士など専門家による建物診断)を依頼し、改修が必要な箇所や実施すべき時期、おおよその費用を提案してもらいましょう。
これから築古物件の購入を検討する際も、売主様の承諾があれば購入前にインスペクションを依頼することも可能です。費用はかかりますが購入する際の安心材料になるでしょう。
インスペクションにかかる費用は依頼先や調査内容によって異なりますが、4.5〜6.5万円程度が相場です。
インスペクションの費用相場や検査項目については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
インスペクションのメリットは?流れや費用相場、検査項目などを解説
売却する
家族構成の変化など、住宅が今の暮らしに合っていないと感じるときは、売却も選択肢の一つです。
リノベーションして間取りを変えることは可能ですが、内容によっては数百万円単位の費用がかかります。おおがかりな工事を行う場合は仮住まいが必要になることもあり、住み替えをしたほうが身体的だけでなく予算的にも楽なケースもあります。
ただし、設備が故障しているときや家の劣化状況によっては、修繕やリフォームして売却することも視野に入れましょう。その際は、不動産会社に相談のうえ実施することが大切です。
一戸建ての売却の流れやかかる費用については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
一戸建て売却の基礎知識!売却までの流れや費用、成功させる為のポイントを紹介
賃貸に出す
家を賃貸として貸し出して収入を生む資産として有効活用する方法もあります。将来子どもに、資産として残せるのもメリットです。
ただし賃貸物件として貸し出す場合はリフォーム費用がかかり、設備が故障した場合は修理費用を負担する必要があります。また、毎年固定資産税や都市計画税もかかります。
その他、空室によるリスクも想定しておく必要があります。家賃収入を得られなければ、リフォームや修理にかかった費用を回収するのは難しくなります。
その為、家賃相場やリフォームにかかる費用などを踏まえて、貸し出しが適切な方法かどうか不動産会社へ相談してみましょう。
建て替える
家の老朽化が気になるものの、周辺環境や立地が良い場合は、家の建て替えを検討してみても良いでしょう。建て替えには、解体費用や建築費、仮住まいの費用はかかりますが、慣れ親しんだ地に住み続けることができます。
建て替えを視野に入れる際は、現行の耐震基準を満たす為の耐震工事やリノベーションにどれくらい費用がかかるか、建て替える際の費用と比較したうえで検討することをお勧めします。
また、高額な費用をかけて新築のようにリフォームしても、建物の築年数は変わりません。将来売却する際の資産価値を考えるのであれば、建て替えのほうが良いかもしれません。
木造住宅の寿命を延ばすには?
木造住宅の寿命を延ばす方法を、3つご紹介します。
日々の掃除やメンテナンスを欠かさない
日々の掃除を丁寧に行い、また必要なメンテナンスを施すことで、木造住宅の寿命を延ばすことは可能です。
例えば結露が発生したらそのままにせず、水分が残らないように拭き掃除をし、カビや変色から家を守りましょう。特に水回りは清掃が重要です。綺麗な状態を保つことで、改修の時期を遅らせることができます。
点検が難しい箇所は業者に依頼する
雨漏りによる水の侵入は、躯体を腐食させ、家の構造を弱らせます。屋根やベランダなどからの雨漏りは気付かないうちに進行していることもあります。しかし、一般の方では確認が難しい箇所も多い為、業者に点検を依頼し、早めのメンテナンスを心がけましょう。
建物の構造や環境、使用の状況によっても異なりますが、一般的なメンテナンス時期の目安は以下の通りです。
住宅の箇所 | メンテナンスの目安 |
---|---|
屋根・外壁 | 10~15年程度 |
水回りの設備 | 15~20年程度 |
屋上やバルコニー(雨にさらされる部分を守る防水工事) | 10~15年程度 |
給湯器・給排水管 | 15~20年程度 |
クロスや建具の交換 | 20~30年程度 |
災害に強い土地に建築する
災害に強い家を建てることも、建物の寿命を延ばすことにつながります。家の倒壊や劣化を防ぐ為にも、自然災害が比較的少なく、地盤が強い土地を選ぶことが重要です。
役所のホームページでハザードマップを閲覧できるケースも多く、担当窓口で配布していることもあります。土地を購入する前には、浸水や洪水、土砂災害、液状化の恐れがあるかどうかなど確認するようにしましょう。
【買主様向け】木造住宅を購入する際のポイント
木造住宅の購入を検討している方の為に、購入する際のポイントをご紹介します。
瑕疵担保責任の期限
新築住宅の基本構造部分については、引き渡しから通常10年間は瑕疵担保責任(契約不適合責任)の対象です。つまり購入から10年間は、欠陥が見つかった場合に売主様や施工会社に無償で修繕してもらえます。
また、住宅によっては20年に延長していることもあります。売主様に瑕疵担保責任の期間を確認してみましょう。
改修工事の有無
家の購入を検討する際は、補修や改修などの有無や工事の時期を確認するようにしましょう。同じ築年数でも、きちんとメンテナンスされた家は寿命が長くなることが期待できます。内容や時期については、契約書や領収書などで確認できます。
耐震構造
耐震構造とは、地震の揺れに対して耐えられるように設計された構造のことです。
同じ耐震構造であっても、構造や採用している工法、装置によっても耐震性は異なります。耐震性能の最高ランクは「耐震等級3」ですが、併せてハウスメーカーや工法も確認しましょう。
耐火性能
耐火性能とは、火災にあった場合の火災による倒壊や延焼を防止する為に、耐力壁や柱、床などに求める性能のことです。構造の性能を維持できた耐久時間によって、耐火性能が異なります。
【売主様向け】古い木造住宅を売却する際のポイント
最後に古い木造住宅の売却を検討している方の為に、売却時のポイントを3つご紹介します。
瑕疵や不具合は隠さずに伝える
家の瑕疵や不具合は、隠さずに伝えるようにしましょう。引き渡し後に契約で定めた内容と異なる状態であることが発覚した場合、前述した通り契約不適合責任を問われる恐れがあります。
瑕疵の内容や程度によっては、売買価格の減額請求や契約の解除を求められ、損害賠償請求をされる恐れもあります。
契約不適合責任については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
マンション売却における瑕疵担保責任(契約不適合責任)とは?対策方法を解説
相談せずにリフォームをしない
売却の為にリフォームする場合は、不動産会社に相談してから実施しましょう。費用をかけてリフォームしても、その費用を回収できるとは限りません。まずはそもそもリフォームが必要なのかを含めて担当者に相談することをお勧めします。
不動産会社のなかには、オプションとして簡易的な修繕サービスを選べるところもあります。例えば、長谷工の仲介では早期売却の為のオプションとして「壁・床リペアサービス」をご用意しています。詳しくは、以下のリンクをご覧ください。
木造住宅の売却に強い不動産会社に依頼する
家の売却を成功させる為には、不動産会社選びが重要です。各不動産会社の特徴や強みを確認し、木造住宅の販売実績が豊富な会社を選びましょう。
不動産会社を比較する際は、複数の不動産会社へ査定依頼することをお勧めします。そして、提示した査定価格の根拠が分かりやすく、親身になって対応してくれる担当者がいる不動産会社に売却を依頼しましょう。
まとめ
法定耐用年数は実際の家の寿命とは異なります。耐用年数を超えているからといって住めなくなる・売却できなくなるというわけでもありません。
耐用年数を超えた木造住宅の購入・売却を検討している方は、ぜひこの記事でご紹介したポイントを参考にしてみてください。
長谷工の仲介は木造住宅の購入・売却の仲介実績が豊富です。
売主様に向けては、売却する物件をより魅力的にするサポートや、お取引後も安心が続く仲介アフターサービスなど各種ご用意しています。
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※本記事の内容は2024年10月2日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。