不動産は現金とは異なり、明確な価格を目で確認できません。しかし、不動産鑑定を利用すれば法的根拠に基づいた価格を算出できる為、様々なシーンで役に立ちます。
この記事では、不動産鑑定の概要や鑑定の流れ、不動産査定との違い、どのような場面で活用されているのかなどを解説します。不動産の価格を証明する不動産鑑定について深く知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
不動産鑑定とは?
不動産鑑定とは、国家資格である不動産鑑定士が不動産の適正な価格を算出することです。不動産鑑定により導き出された評価額は公的な信用力を持ち、様々なシーンで役に立ちます。
不動産鑑定と不動産査定の違い
不動産鑑定とよく似た言葉に「不動産査定」があります。不動産査定とは、不動産を売却する際に売り出し価格を決める為のサービスです。査定には大きく2つの方法があります。
- 机上査定
- 訪問査定
机上査定とは、不動産の立地条件や路線価、類似物件の取引事例によるデータをもとに不動産価格を算出する方法です。簡易査定と呼ばれることもあり、不動産会社の担当者が実際に現地を訪問しなくてもおおよその査定ができるのが特徴です。
一方、訪問査定とは、机上査定で用いたデータに加え、実際に不動産を現地で確認し、様々な事情を汲み取ったうえで不動産価格を査定する方法です。机上査定に比べ、より売却相場に近い価格を算出できます。
不動産鑑定と不動産査定の違いとしては、不動産査定が不動産会社独自の方法で価格を見積もるのに対し、不動産鑑定は資格を持った不動産鑑定士が評価する為、公的な信用力があることが挙げられます。
ただし、不動産鑑定は少なくとも数十万円の費用がかかります。一方、不動産査定はほとんどの不動産会社が無料で行っています。
その為、不動産売却を検討する際は不動産査定を依頼する、価格に法的な根拠が必要な場合は不動産鑑定を利用するなど、それぞれをうまく使い分ける必要があります。
不動産査定については以下の記事で詳しくご紹介しています。
マンション売却査定の不安を解消!査定の流れや査定でみられるポイントを徹底解説
一戸建て売却の査定価格はどう決まる?見られるポイントや査定のコツとは
不動産鑑定評価の方法
不動産鑑定には大きく3つの評価方法があります。それぞれの概要を説明します。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、近い条件の取引事例をもとに不動産を評価する方法です。交通アクセスや築年数、接道状況や面積などが類似している物件を参考に概算を出した後、マーケット状況や個々の事情を踏まえた補正を行い、適切な不動産価格を導きます。
取引事例比較法はマンションや土地の鑑定方法として広く使われています。ただし、参考となる取引事例がない場合や、取引から長い時間が経過している事例しかないケースでは正確に評価することが難しくなります。
原価法
原価法とは、不動産を再調達する(同じ不動産を建築する)場合の原価を導き出し、築年数やエリア特性などの補正を反映させて評価額を算出する方法です。
具体的には、以下のような要因がある場合は補正が必要になります。
- 物理的要因(築年数の経過や破損など)
- 機能的要因(付帯設備の陳腐化など)
- 経済的要因(周辺環境や市場の変化など)
- 土地の減価(建物が建っている土地価格の低下)
原価法は建物の評価額を算出する際によく用いられます。また、対象不動産が土地のみであっても、新たに造成された土地など、再調達原価が必要となるケースで利用されます。
収益還元法
収益還元法とは、対象不動産が将来生み出すであろう収益と現在の価値から収益価格を割り出し、不動産価格を算出する方法です。主に賃貸マンションやアパートの価格を算出する際に用いられますが、一戸建てやマンションの一室でも貸し出した場合を想定して価格を求めるケースもあります。
収益還元法はさらに以下の2つに分けられます。
- 直接還元法
- DCF法
直接還元法とは、一定期間で得られた純利益を還元利回りで割り戻して価格を導く方法です。
直接還元法では、「不動産価格=1年間の純収益÷還元利回り」という計算式が用いられます。例えば、対象不動産から得られる純利益が100万円、還元利回りが5%のケースでは「100万円(1年間の純収益)÷5%(還元利回り)=2,000万円(不動産価格)」という計算ができます。還元利回りは、類似物件の取引事例やエリアごとのデータによって算出されます。
一方、DCF法は、不動産を所有している期間に生み出す純利益と、将来売却した場合の価格を現在価値に割り戻して価格を求める方法です。
例えば、1年間の純利益が80万円、5年後の売却価格が1,000万円、割引率を5%と仮定します。割引率とは、経年劣化により不動産価値が下落することを仮定した数値です。
まず5年間の収益を「現在の価値」に変換します。
- 1年目:80万円÷(1+0.05)=76.19万円
- 2年目:80万円÷(1+0.05)2乗=72.56万円
- 3年目:80万円÷(1+0.05)3乗=69.10万円
- 4年目:80万円÷(1+0.05)4乗=65.81万円
- 5年目:80万円÷(1+0.05)5乗=62.68万円
これにより、5年間の収益の合計は346.34万円となります。次に、5年後の売却価格を現在価値に変換すると以下のようになります。
5年間の収益と5年後の売却価格を合計した数値が、DCF法により算出された不動産の評価額となります。
DCF法のほうが直接還元法より精度が高くなりますが、算出方法がより複雑になるという特徴があります。
不動産鑑定の流れ
不動産鑑定の流れは大きく以下の4ステップで行われます。
- 不動産鑑定の相談・見積もりを依頼する
- 必要書類を提出する
- 書面による評価と現地調査を行う
- 不動産鑑定評価書が納品される
不動産鑑定の依頼から完了までは2週間~1ヵ月程度かかります。ただし、不動産の内容や鑑定方法により期間が前後することがある為、急ぎの際は余裕を持った依頼をお勧めします。
以下、不動産鑑定の流れを詳しく解説します。
➀不動産鑑定の見積もりを依頼する
不動産鑑定をはじめる際は、まず不動産鑑定士に見積もりを依頼するところから始めます。不動産鑑定にかかる費用は対象の不動産や不動産鑑定士が所属する事務所によって変わる為です。
見積もりを依頼する際は以下のポイントに気をつけましょう。
- 複数社に見積もりを依頼する
- 対象エリアに詳しい不動産鑑定士に依頼する
不動産鑑定には20万円以上かかることが多い為、できるだけ適正価格で依頼できるよう複数社から見積もりを取りましょう。また、不動産鑑定士には得意とするエリアがあり、不動産が位置するエリアの実績が豊富な不動産鑑定士に依頼すればより正確な評価をしてもらえる可能性が高まります。
➁必要書類を提出する
不動産鑑定を依頼する際には、不動産の登記簿謄本や権利証、建物図面などを提出する必要があります。提出する主な書類は以下の通りです。
書類名 | 概要説明 |
---|---|
登記簿謄本(全部事項証明書) | 不動産の所有者氏名や住所、その他の権利などを記載した公的な書類 |
建物図面 | 建物の形状や敷地との位置関係を示した図面 |
固定資産評価証明書 | 固定資産課税台帳に登録された評価にかかる証明書 |
売買契約書 | 売主様と買主様間で売買取引を行った際に作成した契約文書 |
建築確認通知書・検査済証 | 建築計画が法令などに適合することを証明する書類 |
物件パンフレット | 物件の形状や面積、築年数などが記載された販売チラシ |
住宅地図 | 各建物の名称や居住者名・住所番地などが記載された地図 |
公図 | 日本中の土地の形状や地番、道路などを図で表した公的な図面 |
地積測量図 | 法務省令で定めるところにより作成された土地の測量図 |
物件概要書 | 住所や価格など不動産に関する基本的な情報をわかりやすくまとめた書類 |
重要事項説明書 | 売買契約において不動産会社が重要な事項を説明する際に交付する書類 |
実測図 | 土地家屋調査士などによって実際に測量された図面 |
管理規約・細則 | マンションごとに定められた管理や使用に関するルール |
権利証 | 不動産の所有権移転登記や所有権保存登記が完了したことを証明する書類 |
提出する書類は依頼する不動産鑑定士によって異なりますが、できるだけ多くの書類を提出することで、より正確な価格の算出が期待できます。
➂書面による評価と現地調査を行う
不動産鑑定には、「書面による評価」と「現地調査」の2種類があります。
書面による評価では、法務局や各役所で対象不動産に関する資料を取り寄せたり、机上調査を行ったりします。例えば、役所では道路や都市計画、埋蔵文化財や開発許可などの調査を行い、法務局では登記簿謄本や公図などの書面を取得します。
現地調査では、実際に対象不動産の現地に足を運び、土地や建物、インフラ状況や周辺環境、接道状況などを確認します。
上記で調査した結果をもとに、不動産鑑定士ができるだけ複数の試算価格を求めます。その後、算出された試算価格をさらに分析・調整し、最終的な価格を導き出します。
④不動産鑑定評価書が納品される
不動産鑑定士による評価が完了したら、不動産鑑定評価書が納品されます。そして、鑑定内容について説明を受ければ、不動産鑑定は完了です。
不動産鑑定評価書には以下の項目が記載されています。
- 鑑定評価額及び価格又は賃料の種類
- 鑑定評価の条件
- 対象不動産の所在、地番、地目、家屋番号、構造、用途、数量等及び対象不動産に係る権利の種類
- 対象不動産の確認に関する事項
- 鑑定評価の依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又は賃料の種類との関連
- 価格時点及び鑑定評価を行った年月日
- 鑑定評価額の決定の理由の要旨
- 鑑定評価上の不明事項に係る取扱い及び調査の範囲
- 関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等
- 関与不動産鑑定士の氏名
- 依頼者及び提出先等の氏名又は名称
- 鑑定評価額の公表の有無等について確認した内容
不動産鑑定での評価を左右する要因は?
不動産鑑定の評価に影響を与える要因は大きく3点あります。ここではそれぞれの要因について詳しく解説します。
出典:国土交通省「不動産鑑定評価基準 第3章 不動産の価格を形成する要因」
一般的要因
一般的要因とは、一般的な経済社会において不動産のあり方や価格水準に影響を与える要因のことです。主な一般的要因には以下が挙げられます。
一般的要因の種類 | 主な要因 |
---|---|
自然的要因 | 不動産の位置関係や気象による影響、地盤や地質の状態など |
社会的要因 | 不動産取引や使用収益の慣習、人口の増減、情報化の進展状況など |
経済的要因 | 税負担の状況、賃金や雇用などの企業活動の状態、技術革新および産業構造の状態など |
行政的要因 | 宅地および住宅に関する施策の状態、土地利用に関する計画および規制の状態、不動産の取引に関する規制の状態など |
地域要因
地域要因とは、不動産の価格に全般的な影響を与える地域の特性による要因のことです。主な地域要因には以下が挙げられます。
地域要因の種類 | 主な要因 |
---|---|
住宅地域 | 日照・温度・湿度・風向などの気象の状態、商業施設の配置の状態、各画地の面積、配置および利用の状態など |
商業地域 | 商業施設または業務施設の種類・規模・集積度等の状態、営業の種別および競争の状態、行政上の助成および規制の程度など |
工業地域 | 幹線道路・鉄道・港湾・空港等の輸送施設の整備の状況、関連産業との位置関係、水質の汚濁・大気の汚染等の公害の発生の危険性など |
農地地域 | 日照・温度・湿度・風雨等の気象の状態、土壌および土層の状態、消費地との距離および輸送施設の状態など |
林地地域 | 日照・温度・湿度・風雨等の気象の状態、林道等の整備の状態など |
個別的要因
個別的要因とは、価格水準に影響を及ぼす個別性を伴った要因のことです。個別的要因には以下が挙げられます。
個別的要因の種類 | 主な要因 |
---|---|
住宅地 | 地勢・地質・地盤等、高低・角地その他の接面街路との関係、商業施設との接近の程度など |
商業地 | 商業地域の中心への接近性、顧客の流れ、情報を伝える為のインターネットワークが整備されているのかなど |
工業地 | 従業員の通勤等の為の主要交通機関との接近性、用排水等の供給・処理施設の整備の必要性、上下水道・ガス等の供給・処理施設の有無およびその利用の難易 |
農地 | 土壌および土層の状態、耕うん(作物の栽培に不向きな土壌を掘り起こしてやわらかくすること)の難易、災害の危険性の程度など |
林地 | 土壌および土層の状態、木材の搬出・運搬等の難易、管理の難易など |
見込地および移行地(「農地」から「宅地」など他の種別へ移行しつつある土地) | 転換後または移行後の種別の地域内の土地の個別的要因 (転換または移行※の程度の低い場合においては、転換前または移行前の種別の地域内の土地の個別的要因 ) ※農地を整備して宅地へ用途変更するなどのケース |
建物 | 建築(新築・増改築等または移転)の年次、施工の質と量、建物とその環境との適合の状態など |
不動産鑑定にかかる費用
不動産鑑定の費用相場は、一般的な宅地や建物であれば20万円~30万円程度が目安といわれていますが、多くの不動産鑑定事務所では、国土交通省が提示している「不動産鑑定報酬基準」をもとに鑑定費用を独自に設定しています。ホームページに鑑定費用の目安を掲載している不動産鑑定会社もあるので、参考にしてみましょう。
不動産鑑定費用は、不動産価格が高い程費用も高額となります。不動産鑑定は不動産鑑定士の独占業務であり、鑑定評価額が高い程責任が重くなることから、鑑定評価額によって費用が左右されるのです。
また、所有権が複雑な不動産や、借地権が付いている不動産、1つの土地に様々な土地の形状が混在している不動産などは調査に手間がかかり、その分鑑定費用が高額になる傾向にあります。
例えば、借地権が設定されている不動産は所有者が不動産を自由に使えない為、所有権のみと比較して価格が変動します。また、土地が整形地であれば評価額を算出しやすいですが、複雑な形状程評価額の算出が難しいとされています。その為、これらの評価額を算出する為には、より多くの事例やデータを集め、多角的に調査を行う必要があります。
借地権については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
借地権付きの家は売却できる?方法や相場、手続きの流れをわかりやすく解説
このように、不動産鑑定にかかる費用は一概にはいえません。不動産鑑定は複数社から見積もりを取り、適切な価格で依頼することが重要です。
不動産鑑定が必要なケースは?
不動産鑑定で得られた結果は、裁判所や税務署などの公的機関でそのまま利用できます。
一方、一般的な不動産売却では不動産鑑定は必須ではありません。ここでは、不動産鑑定が必要な理由をケース別にご紹介します。
公的機関が土地価格を算出するとき
公的機関が公示地価や基準地価を算出する際には不動産鑑定が必要になります。
公示地価とは、国土交通省の土地鑑定委員会のもと、2名以上の不動産鑑定士が標準地を鑑定・評価した結果に基づいて決められた土地価格のことです。毎年1月1日時点の価格が、同年3月に国土交通省によって発表されます。
基準地価とは、各都道府県が主体となり1名以上の不動産鑑定士が基準値を調査して決められる土地価格のことです。毎年7月1日時点での価格が、同年9月に各都道府県によって発表されます。
公示地価や基準地価は、相続税評価・固定資産税評価の目安や、金融機関の担保評価、公共用地の取得などに活用されています。このように、公的機関が算出する重要な指標を評価する為に不動産鑑定が利用されているのです。
公示地価や相続税評価額などについて知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
マンションの資産価値を調べる方法は?ケース別に活用できる評価額を解説
売買時に適正価格を知りたいとき
不動産を売買する際に不動産鑑定が役に立つケースがあります。
例えば、親子や兄弟姉妹、親族間で家や土地を売買する場合、極端に低い金額で取引を行うと贈与税の課税対象になるかもしれません。
その点、適正な価格を不動産鑑定によって算出すれば金額の信憑性が高まります。その結果、税務署から指摘を受けるリスクを下げると同時に親族間のトラブルを防ぎ、安心して不動産を売買できるようになります。
不動産を担保にするとき
不動産を担保として金融機関から融資を受ける際に不動産鑑定を依頼することがあります。
不動産鑑定は、不動産が担保として適切なのか、またどの程度の金額の融資が適切なのかなどを見極める為の根拠になります。
金融機関側からすると、不動産鑑定評価書により担保価値を確認できる為、スムーズな融資審査が行えます。また、不動産鑑定により金融機関は根拠に基づいて審査を行える為、審査に通る可能性を高めることも期待できます。
離婚時に財産分与を行うとき
離婚時の財産分与にも不動産鑑定が活用されます。
離婚時の財産分与は夫婦間の話し合いによって決まりますが、話し合いがまとまらなかった場合は家庭裁判所の調停に発展することがあります。その際、不動産の評価額を適正だと証明する為に、法的根拠がある不動産鑑定評価書を用いることがあるのです。
離婚時の財産分与やマンション売却については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
離婚時にマンションを売却すべき?財産分与やローンがある場合の注意点を解説
相続財産を分割するとき
相続人が複数いる状況で不動産を相続した場合も不動産鑑定が役立ちます。
不動産は現金と違い価格が明確でない為、相続人同士のトラブルに発展しやすい傾向にあります。相続人の間で分割協議がまとまらなかった場合、不動産鑑定を利用し不動産鑑定評価書を裁判で活用することで、安心して相続財産を分割できます。
不動産の相続については、こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
マンション相続の手続きとは?流れや相続税の計算、利用できる控除を解説
家の相続手続きの流れは?費用や注意点についても分かりやすく解説
まとめ
不動産鑑定評価の方法には、取引事例比較法、原価法、収益還元法の3つがあり、鑑定には少なくとも20万円以上の費用がかかります。また、不動産鑑定は主に離婚・相続時の財産分与や融資時の担保を評価する際に多く利用されます。その為、特定のケースを除いた不動産の売却時には、費用のかからない不動産査定がお勧めです。
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※本記事の内容は2024年6月26日現在のものであり、制度や法律については、今後改正・廃止となる場合がございます。